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2018年09月14日

旅館での溜息「オフの京都の静かな宿」

桜のシーズンが終わった京都は静かだった。誰もいない高尾の神護寺へ向かった。バス停裏の石段を下り、橋を渡って、今度は長い石段を上る。まだ若かった頃、紅葉シーズン真っただ中の神護寺を、いつもの仲間たちと訪れたことがある。この石段の途中で「もみじの天ぷら」を食べた記憶がある。下りも上りも、境内にも人はまばらだった。その足で西明寺、高山寺と、順に歩いた。こんな年齢になるまで高尾の三山を歩いたことはなかった。だから歩き終えた時、一種の達成感を感じた(笑)。人出は苦手なので、オフシーズンでも十分楽しめた。

その宿は、専用の船で川を上っていく。嵐山の渡月橋の近くにひっそりと宿のレセプションがあり、そこで声をかけ、名前を告げると、宿まで小型船で案内してくれる。目の前には渓谷が広がり、その斜面に遅咲きの桜が見て取れる。この辺りは保津川下りの終点近くなので、多くの船とすれ違う。10分ほどの船旅の途中、船頭役のスタッフと神護寺の雑談をするうちに、宿の船着き場に到着した。そこには数人のスタッフが待っていて、深く長いお辞儀で、利用客を迎えてくれる。

エスコートスタッフに、離れ形式の部屋まで案内され、部屋でチェックインを済ませる。滝が流れる庭に用意された「今日のウエルカムスイーツ」は、炭火コンロで焼く煎餅で、七味や山椒を使って大人味に仕上げてあった。敷地はお偉い方が持っていた別荘地だったらしく、広くはないが、山の斜面を利用していて、眼下に保津川が流れ、反対側の斜面にはトロッコ列車が走っていく。

夕食は専用のダイニング棟に予約してあった。一番の目的は、この料理長K氏の手によるディナーだ。祇園の有名割烹の次男として生まれ、和食を学んだ後、渡仏してミシュラン三ツ星でフレンチを学び、帰国後ここの料理長に就任した。彼のこの日の料理は「京料理」でありながら、和洋の神髄が季節食材を生かし、とても楽しいコース仕立てだった。

初夏の嵐山に見立てた椀や、メインの近江牛のグリルに添えられた太くて甘いアスパラを、バーニャカウダで楽しませる趣向に、おもわず唸った。またコースに合わせたペアリングも、ワインと地酒を組み合わせたもので、利用客を心底楽しませるスタイルだ。食後に寄ったBARでは、ペアリングで使用されたワイナリーや酒蔵の(先ほどとは違う)酒を楽しむことができる。鳥居平(とりいびら)を飲み、国産ワインの水準の高さを実感することになる夜だった。

ちなみに朝食はルームサービスの和食をオーダーしたのだが、部屋でテーブルを組み立て、仕上がったのは、嵯峨豆腐や京野菜をつかった「鍋」だった。これはこれで、とても楽しい。「Hのや京都」は大人が楽しむ静かな宿だ。

Hのや京都 hoshinoya.com/kyoto/

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