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2019年05月24日

本の時間「小説と演じる俳優」

作家・H田哲也のこの小説は、冒頭からいきなり、どぎつい表現で犯罪者の病的な心理を描写する。それが犯罪者による「独白」のような手法をとっていて、読みながら引き込まれ、読者の後頭部をぶん殴るようなインパクトを与える。その世界は色がなくて、明暗だけが際立ち、鋭利な空気感が漂う。
彼の作品で初めて読んだのは、ストロベリーナイトという、女性刑事・姫川玲子を主人公にした推理小説で、その後シリーズ化された。そして映画化やTVドラマ化され、一躍有名作家になっていった。映像化された小説には「ジウ」シリーズもあり、これは当初脇役だった男性刑事・東弘樹が軸になって展開していく「新宿」の物語だ。

ふたつの作品は主人公、脇役、敵の、それぞれの視点でストーリーが進むのだが、特に脇役のキャラクターが抜群に面白い。キャラが立った脇役一人一人が生き生きしている。映像では花のある女優が魅力的に主人公を演じ、視聴者を引き付け、力ある俳優が個性的に脇役や世界観を表現する。当初のT内結子とN島秀俊のキャスティングはハマっていた。映像を見た後に小説を読むと、役者の彼らが小説の中にリアリティーをもって、生々しく、生きている気がしてくる。僕は、ガンテツという脇役の刑事キャラクターを、T田鉄矢をイメージしながら読んでしまう。これがとてつもない嫌な奴として描かれているのだが、見事に演じきっていると思う。

僕が読み終えた彼の小説は「ルージュ」と「ノワール」という2冊だ。赤と黒ということだろう、それぞれ前編と後編といっていい。しかしルージュはストロベリーナイト・シリーズで、ノワールはジウ・シリーズだ。ふたつの作品の時間軸と存在世界は同じで、2冊が、ある種一対となって構成されている。主人公たちが直面する事件を追ううちに、二つ物語(2冊の本)の登場人物が交差していく。そんな、ファンには見逃せない作品になっている。
今年の4月になって、このストロベリーナイトが、新しいキャストを迎えて、テレビドラマとして再度、映像化されることになった。今度の新しい配役を見て、う~ん??と唸った。誰一人フィットしていない気がする。ヒット作のリメイクというのは、やはり難しい作業なのだろう。

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