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2025年07月25日

うん十年たっても変わらないもの

どうしても行きたかった目黒とんき
東京ローカルグルメ
ここは、とんかつ屋さんだ。この編集後記では、かつての思い出の店として書いたことがあるから、登場するのは2回目かな。まぁ身びいきの店だから、書くとついつい長くなる笑。
この店に派手な特徴は何もない。初めての人には、見るからに地味で目立たないし、まるで昭和の食堂みたいな店に見えると思う。でもここは昭和の美食家たちに愛された有名な店なのだ。目黒で創業80年、現在地に移転して50年というから、とんかつ屋とすれば超老舗なのは間違いない。根強いファンがいるのだと思う。
目黒駅から徒歩数分、駅前の権之助坂を少し進んで、左の小路に入ったところにある。いつの間にか目黒駅前の景色も変わっていて、今では大きなビルの陰に隠れてしまっていた。
東京へ来るたび、行きたいなぁと思い出すのだが、この30うん年そんな機会はなかなか訪れなかった。今回は近くの五反田にホテルをとったから「よし行ってこよう」と思い立った。
現代のグルメタウン五反田に泊まるのに、隣駅のここを選択してしまったことになる笑。僕にはそれほど魅力があるってことかな。

開店時刻を目指して店に着いた。建物というより店前の行列を見つけて、ここだぁと分かる感じだ。16時開店ということは、今はもうランチをやってないのだろうか。ざっと30うん年ぶりの来店だから、いろいろ変わってて当たり前かな。行列の大半は、僕たちと同じ世代の人ばかりだった。つまりファンの年齢層は相当高い。
東京で「とんかつ」と言えば、というクイズがあったら、今でも「とんき」と答える。目黒と言えば?となっても、とんきと答える。僕にとっての目黒はサンマではなく、とんきなのだ笑。都内に何軒かの「のれん分け」の店があるのだが、行くなら目黒ということになる。
16時ちょうど、3代目が外に出てきて、一組ごとに笑顔であいさつしながら、店内に誘導していく。とはいっても、1階はカウンターだけだから、好きな席に自由に座るだけだ。常連さんたちはこんな何気ない挨拶が、きっと嬉しいのだと思う。

広い店内に特別なものは何もない。でも掃除が行き届いている(これが凄い)。毎日タワシで磨き上げられた真っ白なカウンターは、まるで高級寿司店のそれを思わせる。広い厨房の床は、なぜか木製のスノコみたいなのだが、これも真っ白に磨き上げられている。
そんな真っ白なカウンターには、ソースの瓶、七味(一味?)の瓶、爪楊枝の三つが置いてあるだけだ。ちなみにソースの瓶は百均にありそうなくらい素朴なやつだ。
メニューは壁面に書いてあるだけで、カウンターには置いてない。まぁ、ヒレ、ロース、串カツの三つしかないから、メニューは邪魔なだけかな。とにかく何もないから、僕の写真もない笑。
真っ白な厨房着の職人さんたち、そしてレトロな三角巾とエプロンの女性がキビキビ気働きする。もちろんBGMもないから、店内は静かだし、客もあんまり会話しない。何人かはビールを飲んだり、一人読書しながら「とんかつ」を待つ人もいる。
目と目が合うと、職人さんがオーダーを聞いてくれる。ほぼ定食スタイルなのがお決まりだから、僕たちは「単品で」と加えるのがマナーだ。もちろんビールは「瓶」しかない。揚げあがるまで最低20分かかるから、ビールを飲むペースに工夫が必要かな笑。

とんかつ専門店といえば、うちの豚肉はどうだとか、特注のパン粉がこうだ・・とか、まず胡麻をすってくれとか、最初は塩で食べてくれ・・・などと品質や能書きをPRするのが一般的なのだが、ここにはそんな主張は全くない。
ようするに、ここは先代、先々代の頃からの職人たちが真面目に作った「とんかつ」を、ただただ純粋に食べる場所なんだと思う。それをず~っと貫いて、必要のないものを省いたカタチなのかもしれない。
さっそく、熱々のとんかつのお出ましだ。初めての人にとってはちょっと異質な姿をしている。下の写真を見れば分かるが、まず切り方が独特なのに気付く。タテに切るのが一般的だと思うが、ここはさらにヨコにも切ってある。しかも必ず上下が非対称なのだ。
Web画像がたくさん出回っているから分かるのだが、テキトーに切っているのではなく、わざとそうしているようだ。まぁ職人たちが年月かけて到達した最良の切り方、最良のサイズなんだと思う。

まずは真ん中あたりをつまんで口に入れる。あぁやっぱり旨い。この味だ、ただひたすら旨いなぁ。次は皿に乗った辛子で食べはじめる。そうして半分くらい食べたら、次はソースをぶっかける。皿のキャベツにもグイグイかけ回す。
そんなソースまみれのやつが一番旨いから、少し不思議な気もする。これが昭和の味ってことかなぁ。ソースは門外不出のレシピらしいから納得するしかない。もちろんソースまみれのキャベツ(脇役)もいい仕事をして、主役を引き立てる。
そしてもうひとつの特徴がパン粉の衣だ。ふつうなら、粗挽きの生パン粉が立っていてサクサクだ、などと言うのだが、そんな衣ではない。サクサクだけは同じだが、ここでしか味わえない特殊な衣なのだ。
職人さんの手元を見ていて気付いたのだが、衣の色が黄色いのは玉子のようだ。細かなパン粉と卵液を何度か絶妙に重ねた衣だった。だからどうなるのか・・・、ここからは職人技の範疇だから理由を知る由もない。とにかく、ひたすら旨いのだ笑。

この日は、ちょっとしたハプニングがあって、僕たちは2人で3枚のとんかつを食べることになった。でも不思議なのは、こんな年齢なのにペロリと食べてしまうことだ。旨味に溢れていながら軽くてさっぱりしている、そんなことかもしれない。
満足して店を出た。そして振り返ってのれんを確認する。店ののれんには、やっぱり「つかんと」と書いてある笑。うん十年たっても、ここは味だけでなく、のれんでさえも昭和のままなのだ。
さて、五反田へ戻ろう。人気の庶民派グルメがたくさんある五反田なのだが、とんかつ3枚の後だから、あんまり食べれない。どうするかなぁ笑。

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