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2024年06月13日

レトロ喫茶のモーニング

それは僕のミスだったかもしれない。シニアのおっさんと若い女性とのコミュニケーションというのは、しばしば歯車があわないものだ。今回は、ある日の浅草で訪ねたレトロな喫茶店のお話。

夜の食事に出かける僕たちに、フロントのカウンターに立つ若い女性スタッフが「いってらっしゃいませ」と笑顔で声を掛けてくれた。まぁ若い女の子と目と目が合うことはめったにないから、僕は立ち止まり、彼女に質問を投げかけた。
早朝から「モーニング」をやってる「レトロな喫茶店」を聞きたかったのだ。せっかくの浅草だから、地元の人が使うような浅草らしい店がいいなぁ、と思っていた。そんな地図やリストがあればベストだ。彼女は驚く様子もなく笑顔で対応してくれた。
もちろん、こんな僕だから旅に出る前に、そんなことはひと通り調べてある。地域の住民が早朝から働く街には、そこに根付いた人気のカフェはたくさんあるものだ。でも探していたのは、昭和の香りがそのまま残った古~いやつだ。まぁ純喫茶というやつかな。
調べると浅草にはいくつかヒットしたのだが、メニューや売価はわかっても詳しいことは分からない。特に「雰囲気」は想像するしかないのだ。だから、やっぱり地元の人に聞いてみるのが一番だ。

彼女は「あいにく地図はないのですが、私が大好きでよく使うお店があります」という旨の対応をしてくれた。これはこれで嬉しい対応だ。最近はレトロ喫茶がブームだから、そんな質問も多いのかもしれない。
で、彼女の口から出て来た店名に聞き覚えがあった。事前に調べてヒットした店のひとつで、店名に「当て字の漢字」を使った店だったからだ。
場所がちょっと難しくて説明でないので地図を出します、と言いながら彼女はさっそくタブレットで調べ始めたのだが、うまく経路地図が出てこない。せっかちな僕は「大丈夫、ちゃんとこれで探すから」とスマホを指して、会話を終えた。
この店は、僕にとっては第3候補くらいのポジションだったのだが、これでもう安心だ、明日は朝からジタバタ探す必要もない。

さて翌朝、朝の散歩を楽しんだ僕たちは、その足でさっそくこの喫茶店へ向かった。Googleマップが示すのは、シンナカ(新仲見世)のアーケードの中だった。早朝のアーケードに人影はなく静かで、店はすぐ見つかった。彼女が言うほど複雑な場所じゃないのだが、ホテルからの経路で言えば、確かに説明が難しいのかもしれない。
店は階段を登った2階にあった。店名は「友路有」と書いて「トゥモロー」と読むらしい。横にはちゃんと「昔ながらの喫茶店」と書いてある笑。着いたのは朝7時半くらいだが、なんと、ほぼ満席で驚いた。しかも座っているのは外国人(欧米の方たち)ばかりで2度びっくりだ笑。たまたま空いてる席に案内してもらい、テーブルの朝食メニューを眺めたら、朝食メニューの半分が、ごはん味噌汁の和定食で驚いた(3回目のびっくり)。
さらに両側に座ってる外国人カップルが食べていたのも焼き魚定食で、4度目のびっくりだった笑。もちろんこっちはスクランブルエッグとチーズトーストのモーニングセットだから、なんか和洋が逆転している感じかな笑。ちなみにこのセットに付いてくるのはスープではなく味噌汁だった。浅草の喫茶店はなんだか不思議だ。
外国の方々は一斉に帰って、いったん席は空くのだが、次々に来店客がやってくる。どうやら男性1人客ばかりで、会話からすると皆んな常連客ばかりのようだ。再びすぐに満席になった。

働く女性たち3人はパワフルに営業を続ける。大混雑の店内に加えて、テイクアウトを受け取りに来る客もずいぶん多い。さらにウーバーイーツの配達員も何回かやってきた。そういう意味では朝から猛烈な繁盛店なのだ。
さらに驚いたのが、セルフレジだったことだ。客がレシートのQRコードで会計するやつだ。自称「昔ながらの喫茶店」は現代的な新しい仕組みをどんどん活用していて、見ている僕は再び驚いていた(びっくりはもう何回か忘れたけど)。
さて冷静になって店内を眺めた。古いのは間違いないが、昭和レトロというほどでもないかな。純喫茶あるあるのシャンデリアもステンドグラスも、あのベロア生地のソファーもない。懐かしのクリームソーダはあるが、サイフォンで出てくる珈琲はない。
ホテルの彼女の「レトロな喫茶店」と僕のそれは、やはり食い違っていて当然のことだと思う。若い彼女に昭和レトロが理解できるはずもないよなぁ。

そういえばホテルの彼女は、ここのナポリタンやフレンチトーストをすすめていたっけ。どうやら若い彼女にとっての昭和レトロは、こういうメニューのことらしい。
まぁ、僕たちにとってのこの店は、昭和スタイルの商品を出す「最新型の令和喫茶」、ということかな。まぁ会話の歯車は合わなかったが、彼女のおすすめは間違ってはいない。食べたフレンチトーストは、パンの旨味を残した素朴な昭和の味で、なぜかとても懐かしい気がした。
僕がこんなにたくさん驚くのだから、そんなシニアのファンもたくさんいて、つまりこの店は老若男女に支持される浅草の大人気店ってことだと思う。

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