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2019年05月03日

ただ食べたくて「福井弁がおいしい」

まだ、アルバイトに明け暮れていた若い頃、男同士で飲むとなると、かならず片町の秋吉へ向かった。お金のない僕たちの憩いの場だったのだろう。若いくせに常連ぶった態度で、若鳥やシロを注文して、生意気に飲んでいた。そんな僕たちを、福井出身の店主ご夫婦が、いつも笑顔で迎えてくれた。片町だけでなく香林坊もよく行った。引っ越してからは、松任店や野々市店へも通った。時には、お持ち帰りで「自宅秋吉」も、しばしば楽しんだ。しかし、理由ははっきりしないが、行かなくなって10年以上の月日が流れていた。
仕事で福井へ通うようになったころから、福井県民にとっての「秋吉」の特殊性を知るようになった。秋吉は市民にとても愛されてる。福井駅前にはテイクアウトだけの秋吉もあったし、郊外へ行けば、なんとドライブスルー秋吉もあった。いまでは、内装が充実し、テーブルで楽しむ高級版秋吉?もあるらしい(値段はちがうのかな)。また本場の食べ方としては、まず名物の「純けい」を味わうのが流儀だと知った。若鳥やシロから食べるのはトーシローなのかもしれない(笑)。

ある日のこと、サンダーバードに乗って福井駅に降り立った。福井駅前の再開発が一段落し、新しい商業施設や大型ホテルがオープンした頃で、仕事半分、プライベート半分の小さな旅だった。電車にしたのは、仕事モードの時間が終了したら、秋吉で一杯やるつもりだったからだ。予定を決めた時からのお楽しみだ。お目当ての駅前店は「恐竜広場」の真ん前で、かつてテイクアウト専門店の場所にあった。大きなビルになり、その1階2階が店舗のようだ。

夕方の開店時刻をやや過ぎた頃に暖簾をくぐった。カウンターの席には、まだ余裕があったが、その後あっという間に満席になった。繁盛店だからだろう、焼き台は2か所あって、それぞれ、いつものように炎をあげていた。さっそく「純けい」を頼み、ビールで一息つく頃、不思議な光景を目にした。入口近くに、スチール製の大きなラック(棚)が設置してある。駅前だから観光客のトランクでも預かるため?、のように思えるほど、大きなラックだ。そこに、どんどん紙袋が並んでいく。お持ち帰り用の紙袋だ、と気づいた。しばらくすると、その大きなラックは、紙袋で一杯になっていった。2か所あった焼き台は、どうやらお持ち帰り用に増設されているのかもしれない。それを受け取りに来る客が次々に訪れ、ウエイティングが並び、店内の喧騒感がピークになっていった。ほんの30分ほどの出来事だ。福井県民の「お持ち帰り秋吉」の凄さに驚かされた。

串焼きを追加するリズムも、出来立てを一気に食べるリズムも、どんどん速くなっていく(笑)。そして、あの「社長」「お嬢ちゃん」とか「350万のお返し」という、秋吉コトバは健在で、福井弁のイントネーションが楽しい。近年は、若い女の子の福井弁を耳にする機会が増えたような気がする。「チアダン」などの影響だろうか。いま、福井弁の真ん中にいる。従業員も、となりのカップルも、みんな福井弁だ。やっぱり秋吉には福井弁が、よく似合うな。

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