マンガは別腹「空想科学冒険漫画」
その日は朝から、大阪万博2025が決まったニュースで沸いていた。ニュースで知るまで、まさか大阪が誘致に立候補しているとは知らなかった(笑)。前回の大阪万博は50年ほど前のことらしい。テレビでは、月の石とか携帯電話とか、当時のことを言っているのだが、あまり記憶にない。思い出を絞り出したが、ほとんど出てこなかった。たしか、僕たちの学年の中学校の修学旅行は大阪・京都で、万博に行っているのだが、僕は参加していない。おたふく風邪になったからだ。だから、同級生との思い出がないのだ。
そんな息子を不憫に思った父親が、自分の会社の慰安旅行に、僕を連れて行った。その慰安旅行は、京都と大阪万博の旅だった。京都駅前の木造の旅館に泊まったことは、なんとなく覚えているのだが、それ以外の記憶はない。万博会場では、太陽の塔の内部にいたことは覚えているのだが、これ以外、何をしていたのかも思い出せない。大人の旅に同行しただけでは、楽しくなかったのかもしれない。
三波春夫が歌う「世界の窓からこんにちは」で思い出すのは、むしろ浦沢直樹の漫画「20世紀少年」のキャラクター波春夫(映画では、たしか古田新太)の方だ(笑)。その漫画の正式なタイトルは「空想科学冒険漫画・20世紀少年」という。漫画の時間軸に出てくる大阪万博への共通の思い出は未来への憧れみたいなものだったのだろうか。この漫画には、なぜかシンパシーを感じて、全巻を大人買いして読んでいった。ストーリーは荒唐無稽で、うろ覚えだが、当初は、頭の中に井上陽水の「少年時代」を浮かべながら、ページをめくっていったように思う。それが映画化された後は、Tレックスになってしまった(笑)。映画は、たしか3部作で、出演者の顔ぶれが発表されるにつけ、原作漫画のキャラクターたちにぴったりのキャスティングに、とても驚いたことを覚えている。最後のシーンは映画と原作は違うようだが、もう思い出せない。
後日談だが、作家・堺屋太一さんが逝った。彼は元通産省の官僚で、最初の大阪万博の仕掛け人だった。彼の視点やコトバ選びがとても興味深くて、ビジネスのプロを目指した僕は、執筆した書籍や雑誌記事を読みあさった時期がある。会ったこともない人物を師匠のように感じていた時期だった。一見ほら吹きのように大プロジェクトを唱える論客で、しかしその実行プロセスまで整えるリアリストだった。その後、リアリストの彼は、政治の中に身を置き、マスコミから距離を置くようになったと思う。僕との距離も遠のいた。だけど、彼のコトバは今でも僕の中に生きている。そんな人はたくさんいると思う。未来は待つものではなく作っていくものだ。僕にとっての彼は、そのまま「空想科学冒険漫画」の主人公だったのだろう。