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2019年05月24日

食べればだんだん好きになる

3か月に一度、会計事務所のセンセーがやってくる。わが社は小さい会社だが、収支計画や実際の会計処理はそれなりに大事なので、彼との時間は大切な行事のひとつだ。彼(センセー)は僕よりずいぶん若く、グルメではないが、ときどき「知ってますか?」と金沢のローカル・グルメ情報を持ってくる。ベルギー人が作っているベルギーワッフルとか、どこそこの人気ケーキ店のシュークリームの話とか、まるで業界人の僕への挑戦状のように、ニヤリと笑いながら問いかけてくる(笑)。僕は僕で、全国区のニュースは知っていても、金沢の情報には、とんと疎いので、そこを突いてくるのだと思う。
あるとき、そんな彼が、なぜか僕が住んでいる千代野団地の中にできた新しいパン屋の話を持ってきた。「今人気で、有名らしいですよ」という、あいまいな表現だったのだが、興味が沸いて行ってみることにした。こっちの地元なのに知らないでは済まされない(笑)。

初めて訪れた日曜日、その店はお休みだった。日曜なのにパン屋がやってない?、団地の中なのに?、と驚いて、看板を見たら、なんとこの店は日曜、月曜が連休らしい。そして店の車庫から覗いているのは自家用車と思える高級SUVだったこともあり、謎めいた第一印象だった(笑)。
2回目は、ちゃんと営業している日に行った。しかし陳列品は少なく、ほとんど何もない状態で、不満に火が付いた。キッチンの中にはたくさんの人がいて、ひげ面のあいつがオーナーらしい、と敵意むきだしでにらんでいた(笑)。商品も素朴で不格好なものばかりに見えて、買ったパンは美味しいとは思えなかった。
3回目は、K中くんが持ってきたパンだった(おそらくバゲットだったと思う)。ワインと一緒に持ってきてくれたのだが、このパン屋の普通に見えるバゲットは、実は美味しくて驚いていた。そして、ずいぶん後になった4回目、うん?、この店のパンは旨いかもしれない、と思うようになった。

この店の店名は「ぱん焼人Hたなか・みきお」という。オーナーが店名に自分の名前を使っているようだ。そしてパン職人ではなく「ぱん焼人」という、ひとを喰ったようなネーミングなのだが、何度か食べている間に、どんどん気に入ってしまった(笑)。個人的には、このファーストネームの方に違和感がある(笑)のだが、もしかすると、商品に自信があって、その商品づくりに魂を込めた店名なのかもしれないな、と思うようになった。
いつも駐車場は満車だし、いつ行っても品不足なのだが、キッチンには4~5人も人がいて、いつも作業している。どうやら人気のあまり、作って焼いて、出しても、すぐ品切れ、の繰り返しのようだ。だから袋詰めされた商品は、いつも温かい。もしかすると品薄イコール焼きたて、を狙っているのかもしれない。概ね置いてある商品は素朴で、キレイという表現は当たらない。見た目は、どの商品も不揃いで、乱暴に作っているようにも見えるのだが、どんな商品を食べても、焼きたてで実に美味しい。

写真は、この日に買った商品だ。どれも、さほど美しいわけではない。正確には覚えていないが、きなこあんドーナツ、シュークロワッサン、塩パン、りんごクリームタルトだったと思う。そして最後のひとつは覚えている、エンサイマーダだ。
こんなところにエンサイマーダ?、と驚いて、ついつい買ってしまった。2~3年前のことだが、二子玉川ライズというおしゃれなモールが完成したとき、スペイン料理のデリやベーカリーを売る店「M」が出店していた。そこの代表商品がこの「エンサイマーダ」で、これ目当てのニコタ・マダムの長い行列ができていた。たしかマヨルカ島の伝統的なデザートパンだったと記憶している。そんな都会でしか売っていないような商品が、こんな片田舎にあったから、驚くだけでなく、得体のしれないオーナーに興味を覚えた。
さっそく順に食べてみた。相変わらず形は良くない。だが、こいつが旨い、どれも旨い。憎たらしいが、とことん旨い。ひげ面の店主の顔が浮かんで、にこりと笑っているような気がした。

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