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2020年03月13日

釜めし、じろ飴、加賀棒茶

福わ家の釜めしが食べたい。ある冬の日、急に思い立った。福わ家(ふくわうち)は、彦三の小橋にある。さっそく金沢駅から「周遊バスの右回り」ってやつに乗ってみた。バスは別院通りから彦三交差点を左に曲がり、彦三大橋を渡る。てっきり小橋あたりで停車すると思っていたから、少し焦った。
古い電信柱に「飴の俵屋」への誘導看板を見つけたので、立ち寄ることにした。何年ぶりかな、と考えながら、あの有名な暖簾をくぐった。こんな時は観光客のフリをして遊ぶ、つまり観光客ごっこだ(笑)。狭くて古い店内に、これまた年代物のショーケースがあって、でも中にはカワイイ現代的なパッケージ商品が並んでいる。食べてみてください、と差し出されたのは、棒にとった、きれいに真ん丸の「じろ飴」だった。チュッパチャップスのスタイルだな(笑)。うん、おいしい、この味だ、と嬉しかった。観光客らしい質問をしながら、結局、きな粉の飴を買うことにした。これはこれで美味しかった。

少し前まで、小橋のたもとに「小橋お多福」があって、その向かい側の敷地に、昔風の変わった建物があった(その建物は今もある)。ひとつの建物なのに、その中に「福わ家」「鬼は外」「鬼屋敷」という三つの店が同居していた。福わ家は「鍋うどん」、鬼は外は「釜めし」、鬼屋敷は「蕎麦」の、それぞれ専門店だった。ちなみに釜めしのことを、ここでは「釜ごはん」と呼ぶ。建物の1階部分はピロティー駐車場で、横の階段を上っていくと、右に鬼は外、左は福わ家だ(笑)。さらに福わ家の玄関先を左にぐるっと回ると鬼屋敷があった。そんな迷路のような店だった。
お多福を含めた4店は、同じ経営者のご夫婦の店で、ファンキーな名物女将が4店を縦横無尽に飛び回り、猛烈な金沢弁で利用客をもてなす。それはそれは楽しい店ばかりだった。金沢を訪ねる人に、たびたび紹介して喜んでもらったことも多い。しかし、数年前から順に、この建物の三っつの専門店の統廃合が進んだようで、今は「福わ家」しか営業していない(お多福は継続しているはず)。いや正確に言えば、今では福わ家で「鍋うどん」と「釜ごはん」の両方が食べれるようになったのだ。これはこれで便利になった。だって従来なら、どちらか一方しか食べられなかったから(笑)。

この日の僕たちは作戦通り「天婦羅の鍋うどん」と「能登牡蠣の釜ごはん」を注文した。釜ごはんは炊き上がりまで時間がかかるので、その間に鍋うどんを楽しむのが、上手な使い方だ(笑)。初めての人は高めの売価に驚くのだが、実は全てミニコースになっていて、値打ちは十分にある。
まず「抹茶」と「野菜の砂糖菓子」が出てきて驚く。次に、太めのうどんが入った鉄鍋が出てきて、テーブルのコンロで炊き上げる。そのうち、揚げたての天ぷらが別皿でドーンと出てくる。大ぶりの野菜や、大きな海老が2本入っていて食べ応え十分だ。炊き上がった鍋に、その天ぷらを放り込み、少し衣が緩んだら、鍋うどんの食べごろだ。茶碗に取り分け、ふーふー言いながらパクつく。旨いんだ、これが。食べ終わりが近づくと、今度は小さな白米のおにぎりが出てくる。これを鍋に入れて、少し煮ると、ダシの利いた「おじや」が出来上がる(笑)。

釜ごはんには、名物の「漬け物」が付く。女将のお手製のはずだ。この日は数種の中に分厚い大根寿司(かぶら寿司の大根版?)が入っていた。そして「おつゆ」が鉄鍋で出てくる。この日は「かす汁」で、これもテーブルのコンロで火を入れる。
ようやく炊き立ての釜ごはんが出てきた。火傷に注意しながら、混ぜ返すと、独特の強い香りと一緒に、中から大きな牡蠣がゴロゴロ出てくる。これも茶碗にとって熱々のうちに食べる。湯気と旨味と香りが鼻から抜けて、至福の表情になる。やっぱり炊き立てが一番旨いなぁ。
一気に平らげたころ、デザートとお茶が出てくる。この日は「ブラマンジェ」と「だいだいのお茶」だった。いつの間にかデザートは今風になったんだな(笑)。この日は平日で、若いスタッフが一生懸命働いていた。名物女将に会いたかったが不在だった。もう高齢(失礼)だから、平日くらいは休まないとね。トイレや店内のいたるところに、女将直筆の「貼り紙」がある。ウイットに富んでいて、少しエッチな、彼女独特の注意書きだ。良かったら隅から隅まで探して、読んでみることをおすすめする(笑)。
ちなみに、小橋のたもとに「オタバ」という名前の小さなカフェが誕生していた。きっと、あの名物女将の店だろう。「お多福」の「スタバ」が店名のモチーフなのだと、すぐに気づいた(笑)。声の大きな、あの女将の笑顔が浮かんだ。

食後の散歩にと、小橋から浅野川沿いの遊歩道を進み、主計町から東山へ向かった。さすがに観光客は少なくて、静かな平日だ。休憩がてらに「一笑」を訪ねた。知らぬ間に改装していたようで、美味しい日本茶の和カフェから「加賀棒茶の専門店」に変身していた。
そもそもここは、あの「丸八製茶場」のギャラリーだから、それも納得できる(笑)。ドリンクは3種類の加賀棒茶のみだった。本日の三種の「茶葉」がテーブルに運ばれ、その香りを比較する。次に、その茶葉に湯を注ぎ、再び香りを比較する。湯をまとった茶葉は命を得たように膨らみ、濃厚な香りを発する。
そんな儀式ののちに、注文した2種類のお茶が、それぞれ違う急須、茶碗で提供される。何とかという名前のブレンド茶は、びっくりするほど旨い。お茶に誘われて注文した「上生菓子」と「クルミのタルト」は美味しかったのだが、お茶には、そもそも上品な3種の小菓子が付いていた(この日は、ゆべし餅、福豆、落雁)。最後の一滴まで味わって満足した。やっぱり、加賀棒茶は僕たちのDNAにしみ込んだ味なんだと、実感することになった。

福わ家 kobashiotafuku.jp
一笑 issho.kagaboucha.com

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