本の時間「村上海賊の娘」
そういえば金沢港クルーズターミナルって、開業が延期したのだろうか。そもそも海の話題は苦手なので、よく分からない(笑)。でも今回は、そんな海が苦手な僕が気に入ってしまった「海賊の本」のお話。
ちょうど1年くらい前のことだ。その日の夕方、自動販売機で帰りのチケットを買って、フェリーの到着を待っていた。尾道のフェリーターミナルには、広い待合所のようなスペースがあって、たくさんの人が船を待っている。みんな買い物を終えて、それぞれの住む島々へ帰っていくのだろう。そういえば駅前の地元百貨店の地下売り場は、ローカルスーパーになっていて普段使いの人たちがたくさん買い物をしていたっけ。知らない名前の地魚がたくさんあって面白かった。
フェリーの待合室の売店で売っている珈琲はテイクアウトの紙コップではなく、ちゃんとした陶器の、しかもレトロな珈琲カップだった(笑)。隣のテーブルの老夫婦が、コーヒーを買い、席で旨そうに飲んでいた。ローカルな雰囲気だなあ。その横の壁には、とても大きな瀬戸内海の地図が掲げられている。尾道を中心にして、瀬戸内の大小の島々を紹介するような観光マップのようだ。
前日の夜、ホテルのライブラリーで「村上海賊の娘」の単行本を見つけ、ビールを飲みながらページをめくっていた。何年か前、文庫本が出たときに読んでいたのだが、その独特の装丁のイラストに目が行き、思い出すように手に取った。この本は、作家・和田竜による歴史小説だが、例によってユーモアあふれるエンターテイメント小説だ。戦国乱世に村上海賊の当主の娘である景(きょう)が、武士や海賊の男たちを向こうに回して大活躍する物語だ。織田信長軍と大阪本願寺の戦いが背景にあって、戦国武将たちの駆け引きや、先が読めない展開が面白い。彼の作品「のぼうの城」や「忍びの国」と同じように映画化されるのかな、などと期待していたが、そんな気配はないようだ。
小説の本編に入る前の部分に、当時の瀬戸内海の地図が挿入されていて、村上海軍の拠点「能島」や、活躍した実際の島々が紹介されていた。自分が今いるのは、そんな小説の舞台の近くなので、地図をのぞいたが、位置関係は分からないままだった。
そんなこともあって、待合室の壁の地図をずーっと見ていた。本の中の地図より広範囲のものだ。隅から隅を見渡して、小説の舞台「能島」をようやく見つけた。地図で見ると本当に小さい島だった。たしか、周辺の海流が速く流れていて、浅瀬も多くて、難攻不落のような場所と表現されていたような気もする。そこから瀬戸内の海を縦横無尽に航海して、遠く大阪まで舞台は続いていたはずだ。
やったことはないのだが、小説の舞台をたどる旅をしてみたい気がしてきた(笑)。そろそろ乗船の時間だ、帰りはデッキに出て、海賊気分で汐の香りを味わおう。