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2025年07月04日

本の時間「絵画から知る17世紀ヨーロッパ」

フェルメールとオランダ黄金時代
今回紹介する文庫本は、当時の歴史の一面を、フェルメール作品を含めた17世紀のオランダ絵画を通して、現代人に解説するような本だった。もちろん絵画鑑賞という点で言えば、作品を読み解くための「知識」を楽しく、そして深~くインプットしてくれる。そんなちょっと異質な本だ。
時代背景とか作者の人柄やエピソード・・・まぁそんな知識なのだが、その視点がとても面白いのだ。単に時代背景とはいっても、宗教、歴史、風土など特有の知識がないと、楽しみ方は薄っぺらくなるのかもしれない。この本はそんなことを教えてくれる。
当時のオランダの統治者は市民だ。東インド会社の成功で莫大な利益をあげ、その勢いや武力でスペインからの独立を勝ち取った。そんな特殊な民衆の国だった。宗教はキリスト教だが実利主義のカルヴァン派。人々の暮らしは安定した収入で貧富の差が少なく、一般的な各家庭に絵画があるような暮らし。画家もたくさんいたそうだ。
その画家たちは、現代の日本の小説家の世界にどこか似ているらしい。いわゆる「得意ジャンル」もあったし、人気の大先生は少数で、副業で暮らしを支える「兼業作家」がたくさんいたって感じかな。たとえばフェルメールの本業は画家ではなく「画商」だったようだ。
ちなみに本作は、小さな文庫本なのに作品の画像が豊富に使われている。日本人なら展覧会でしか見られない芸術作品ばかりだ。なので、ここで使う写真はピンボケ加工することにした。もちろん実物は素晴らしいし、できれば本作も読んでほしい。

まずは僕の個人的なハナシだ。毎年のことだが、年末が近づくと、いわゆるカレンダー売り場をハシゴして来年用のカレンダーを買うことにしている。1年間ず~っと壁に掛かるインテリアみたいなものだから、できれば気に入ったやつがいい。
そして、本年2025年の元旦以降、僕のデスクの右上には「フェルメール」のカレンダーが掛けられている笑。彼の作品が毎月1作品(計12作品)楽しめるやつだ。
ちなみにこの原稿を書いている5月の作品は「デルフトの眺望」という風景画だった。単なる偶然なのだが、それは今回読んだ文庫本の冒頭に登場する作品だったから、ちょっと驚いた。デルフトはオランダ南部、人口2万人の中都市の名前で、フェルメールが生涯を過ごした街らしい。
本作の目次を眺めると、都市、独立戦争、女性たち、宗教、風車と帆船、食材、事件・・・そんなタイトルで作品(絵画)を2~3点選び、絵画はもとより、それを通してオランダを解説するような構成だった。使われた絵画は全部で40点弱かな。
最初の「都市」の章に、このデルフトが登場したのだ。この本の作者が、フェルメールのプロフィールとともに、17世紀当時のオランダ世界へいざなうプロローグに選んだような作品なのかもしれない。

(この画像はピンボケだが)僕にとっては、きれいな風景画に過ぎず、フェルメール作品とはいっても、正直なところ興味は低かった。ところが、本を読んでそれが一変した。驚いたのは、作品に対する目の付け所が、全く違うのだ。
この本にも「デルフトの眺望」のカラー写真が載っている。作者はそれを鑑賞する読者目線を、細部に(ホントに細かい点まで)誘導しながら、順に解説し、読者に様々な知識をインプットしてくれる。
これはフェルメールが、自宅の2階から眺めた景色ではないかと言われているらしい。当時の運河沿いの建築物や船舶、そこにあった人々の暮らしが精密に描かれていた。実は(プロ目線で言えば)その季節や時刻も分かるらしい。
遠くにはフェルメールが洗礼を受けた教会までもが描き込まれていた。この何気ない地方都市の風景の中に「当時のオランダ」が凝縮しているのだ。そして同時に、フェルメールの人となりの一部が透けて見えてくる気もした。

もう数年前のことだが、上野の森美術館でフェルメール展が開かれていたことがある。たまたま東京にいた僕と悪友Kは二人で鑑賞した。高校時代の美術部の頃を思い出すような楽しい時間だった。それ以来フェルメール作品に出会うと、妙なスイッチが入ってしまうんだと思う。カレンダーを買ったのも、この文庫本を手に取ったのも、たぶん同じ理由だ。
ちなみに、当時のフェルメール展に使われていた広告コピーと、本書のタイトルがよく似ていると思う(そんな気がする)。その理由があとがきに書いてあった。大手出版社の依頼で本作の執筆が始まったきっかけもまた、フェルメール展が背景にあったと作者(女性だ)が書いている。
まぁそんな「僕のこじつけ」のようなことにあまり意味はない笑。いずれにしても、僕にとってはとても楽しく読めた1冊だった。
キャンヴァスの隅々にまで目を配ると、そこに時代背景や、作者の意図や、ちょっとしたメッセージが隠されていたりする。やっぱり芸術家の魂ってやつは細部に宿るってことかな。
本書の作者(女性)のことは全く知らなかったのだが、とても著名な方らしい。そして多くの書籍も執筆していた。彼女による「時代を代表する画家とその活躍の地の全容を探る試み」は、シリーズで継続するらしいから、ちょっと類似作品を探してみようかと思っている。

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