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2021年11月12日

ハトの恩返し

朝の住宅地は運転に気を使って、広い道路に出るまで、ゆっくり徐行を繰り返す。ランドセルを背負った子供や、チャリの中学生あたりが小路を飛び出すから、要注意だ。ピカピカの新入生が社会にデビューする春先から、彼らが慣れて社会のルールになじむ夏休みごろまで、ドライバーの僕たちは気を抜いてはいけない。
実はそんな時期に、ランドセルやチャリの子どもたちと同じように、社会生活に慣れようとするやつらもいる。巣立ったばかりの「幼いハト」たちだ。こいつらは人間と違って全くクルマを恐れない。クルマが近づいても、道路の全域をヒョコヒョコ歩くから、こっちが立ち往生してしまう。朝から惨劇に巻き込まれるわけにもいかないから仕方ない(笑)。
横断歩道で止まると、小走りで渡りながら「ありがとう」と言う子供たちに、うんうんと笑顔で応えるオヤジだから、こんなハトにも優しくしなきゃなぁ、などと思ったりする。まぁハトはお礼を言うはずもないけど。

このところ「鳥のフン害」というやつに困っていた。特にこの2~3年どんどん被害が大きくなっている。公園との境界に電柱があるのだが、そこは「カラス」の縄張りらしい。その電柱を中心に円を描くように「白いフン」が落ちている。
電柱の隣が我が家のカーポートなので、屋根はあるものの、しばしばドアやボンネットに直撃を喰らった痕跡に出会う。まぁ白い液体のようなやつなので、早めに水で流せばきれいになるのだが、1日で乾いてしまうので放置すれば掃除がやっかいになる。だから、こんな季節は家の前の水まき(というよりジェット放水)が日課になる。直撃部分と電柱の下は特に念入りだ(笑)。
それが今年になって、今度は反対側の玄関の方にも、違うタイプの「黒いフン」が広がるようになった。上には電線があって、どうやらこっちは「ハト」の縄張りになったようだ。ときおり見上げるとハトが大量に停まっている。だからジェット放水の範囲が拡大していた。彼らには優しく接してきたから、恩返しに来ているのかもしれない(笑)。

ある夏の日の昼頃のことだ。通院から戻って玄関に入ろうとして驚いた。玄関前に広がる黒いフンの量が半端ない。上を見上げて、さらにぞっとした。電線はハトの大群でたわんでいる。そうだ、古い僕はヒッチコックの「鳥」の恐怖を思い出した。
さっそくジェット放水で流そう、と道路に出ようとしたとき、左の肩を軽くポンっと叩かれた(ような気がした)。それは、ハトのフンの直撃だった。道路にベタ~っと落ちてる形とは違って、けっこう固形で、チューブから出た絵の具のような感じだ(笑)。こんなハトの恩返しは、嬉しいはずがない。汚れたポロシャツを玄関先でそっと脱いで、ホースの水で流しながら、市役所へのクレーム電話を思い付いた。
まぁ結局、市役所へのクレームはお門違いで、フン害対応の窓口は北陸電力だった。担当女性の見事で丁寧な電話対応を受けた後、対策班のオジサンが我が家に駆けつけてくれた。残しておいた「黒いフンの痕跡」を見せながら、すぐに対策工事の実施が決まった。どうやら頭上の3本の電線に特殊な「短いカバー」を何個も取りつける工事らしい。鳥が停まろうとすると、くるりと回転して停まれない仕組みなのだそうだ。彼が指さした方向に、いくつかの工事を終えた電線があった。どれもクレームを入れたお宅らしい(笑)。

秋を感じるこの日、庭先に「幼い鳩」が一羽だけ紛れ込んできて、さかんに地面をくちばしでつついている。かわいい姿だ。きっと本能で食べ物を探しているのだ。そういえば、いつの間にか工事は終了していて、それ以来、フン害は途絶えた。なぜかカラスの害もなくなった。
難を逃れた僕は、この幼い鳩を見ながら、また優しい気持ちになっている。とはいえ、ハトのしぐさは可愛いのだが、人間が優しくして放置すると「安全だ」と学習して、図に乗って巣を作るようになるらしい。卵から出たハトはわずか2~3週間で巣立つそうだ。ハトの産卵はてっきり春のことだと思っていたのだが、実は春から秋まで盛んに繁殖するのだそうだ。そんな対策班のオジサンとの雑談を思い出した。生き物たちとの共生ってのは、少し面倒くさいなぁ。

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