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2022年10月01日

散歩の途中で「アートな時間の結末」

いつ頃だったか「右脳と左脳」のハナシが流行したことがある。単純なことで言えば「あなたは右脳派?左脳派?」みたいな会話だったような気もする。右脳派は「感覚的、直感的な能力に優れる」と言われたし、左脳派は「分析的、論理的な能力に優れる」と言われた。良い面で言えば、そんな感じだったかな。
だから、芸術家は右脳派なんだ、ということらしいが、そんなわけがない、という専門家の意見も出てきた。いわく、高い論理性がなければ芸術としての特徴や作風は生まれないのだ・・・なるほど。まぁ、結局のところ、人間には両方の面があって、双方の力を持っている、などと水を差す意見が増えていって、このハナシの流行はピークアウトしていった。今では一種の都市伝説みたいな位置づけになってしまった。

この日、僕たちは箱根の「彫刻の森美術館」にいた。ひと目で釘付けになる作品を前にして「俺の右脳が喜んでるぜ」などと思って、そんなハナシを思い出していた。そして、この作品のどこが感動を与えるんだろう、などと論理で考えたりして、これって左脳的な思考だよなぁ、などと迷路にはまっていく(笑)。
チケットを買い、ゲートを抜けて、エレベーターで下へ降りていく。ちょっとした暗いトンネルを抜けると、緑の芝生が広がっていて、そこに大きな彫刻が点在して展示されている。山の斜面の起伏や段差をうまく活かして、進む遊歩道がそのまま展示の順番になっている。作品ごとに作者と作品名のパネルがちゃんとついている。ロダン、マイヨール、ムーア、ブールデルなどの著名な作者のやつがゴロゴロしていて、ちょっと驚いたりする。
いわゆる屋外展示なので、天気が良ければさらに魅力的なのは間違いない。彫刻って、こんなに青空に映えるんだと感動していた。途中にはキッズ用のポケットパークや、象徴的な「遊び」の施設もたくさんあるから、今風に言えば、これもインスタレーション作品ということだろう。

もちろん室内展示の施設もある。代表格はピカソ館で、300点以上の収蔵作品の中から、順次100作品ほどが展示されているようだ。圧巻だった。歩き疲れた頃、遊歩道の横には、ちゃんとカフェやレストランが出現する。休憩時間も楽しく過ごせるように設計されているということかな。すごいなぁ。
屋外展示されている作品は、どんどん撮影しても良いのだが、やはり著作権は厳しいらしく、きちんと釘を刺される。だから、あんなにたくさん撮ったのだが、ここでの公開はできないことになる(悲)。でもまぁ、芸術作品は写真で見るものではなく、きちんと設計された展示空間で見たほうがいいに決まっている。見たものに与えるインパクトは全く別の次元だ。
ちなみに、美術館の楽しみのひとつが、最後の「ショップ」だ。その美術館にまつわるアートなグッズが楽しい。そして海外の有名な美術館のそれも販売していたりする。ひとつひとつゆっくり手にする時間も、鑑賞のうちなのかもしれない。ここの場合は、アート系グッズとは別の場所に、いわゆる「お土産系」の売場がある。そこにいる利用客の客層が全く違うのが面白い。簡単に言えば、お土産系はジジババばかりだ(笑)。

東京から金沢への帰路のこと、東京駅の丸の内北口にある「オアゾ」という商業施設で、いつものように新幹線までの時間つぶしをしていた。1階の大きな吹き抜けのスペースにベンチなどが並んでいるのだが、この日は、その壁面に目が行った。驚いたことに、ピカソの「ゲルニカ」の原寸レプリカが飾ってあるのだ。いわゆるパブリックアートだ。こんなに目立つ場所にあるのに今まで気づかなかった。無差別空爆を非難する彼の代表作なのだが、じっくり見ながら、芸術の存在意義みたいなことを考えたりした。アートな箱根時間は、ここまで続いたことになる。
そのときだった。あっ、と叫んで隣の家内が急に走り始めた。どうやら新幹線の発車時刻を間違えていたらしい(笑)。僕たちは駅のコンコースを走ることになった。アートな時間は突然途切れた。まぁ僕たちの旅はいつもこんな感じだ。

箱根彫刻の森美術館 hakone-oam.or.jp

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