ホテルの時間「真っ昼間のBAR」
誰にとってもBARは夜の酒の代名詞なのだと思う。でも長く生きていると、なぜか真っ昼間にBARを使う機会に出会うことがある。しかもバーラウンジと呼ばれるような中途半端なやつではなく、ホテルの地下とか通路の奥にあるような本格的なBARだ。
そんなBARだから窓もなく、間接照明の淡い光で、店内は狭い。ラウンジのような明るく健全な解放感は皆無なのだが、このコンパクトな空間が心地よい。
昼に営業するのはたぶん例外で、ホテルのBARだけの特徴と言っていいだろう。昼とはいえBARだからアルコールや名物料理も置いてあるし、もちろん珈琲や紅茶も楽しめる。
あるとき「もしトラ」というコトバを知った。そして色々あって、あの彼が再び大統領に返り咲いた。もしトラは「またトラ」になったらしい。そんなニュースで思い出した、ある日の「真っ昼間のBAR」のハナシを書いてみたい。
この日は、大手町のPレスホテルにやってきた。数年前に全面改装したいわゆる純国産の老舗ホテルだ。部屋数を半分に減らすほどの大改装だったらしい。その当時、彼(某大統領)が令和初の国賓として来日したのだが、宿泊先に選ばれたことで注目度が急上昇したホテルだった。
国賓が、迎賓館ではなく純国産ホテルを選ぶとすれば、誰もが日比谷のT国ホテル、でなければOークラが定番なのに、なぜかここが選ばれた。業界ではとても意外なニュースだったようだ。
だから、使ってみたかった。いきなり滞在という訳にもいかないから、この日は、コーヒーを飲みにやってきただけだ。
地下鉄から通路を歩き、長いエレベーターを昇ったところは、広い吹き抜けのフロントロビーだった。左手にはカフェラウンジがあって、大きな窓から皇居を望む、開放感あふれる素敵なラウンジだ。いい感じだから美味しい珈琲が飲めそうだった。
ロビーにもラウンジにも、黒の礼服やドレス姿がたくさんいた。おそらくみんなブライダル客なのだろう、老舗ホテルらしいなぁ、そんな第一印象だった。
ところが、スマートな美人アテンドから、先に12組がウェイティングしている、つまり満席だと告げられた。ゆとりのある空間に、ついつい目が行って満席だとは気づかなかった。
う~ん残念だ、あきらめる・・・が、どこかコーヒーを飲めるところはないの?、と、多少オーバーな演技をしたら、それではBARはいかがでしょうか、ここと同じドリンクメニューをご用意します。と笑顔の対応を返してくれた。さすがだ。
少し早歩きの彼女の先導で、ロビーの先へと向かった。重厚な扉を彼女が開けて、席まで案内されたのが、この「ロイヤルバー」だった。先客が3組ほどいた。彼らも僕と同じように演技上手なのだろうか笑。
ただコーヒーを飲むだけなのだが、ドリンクメニューを隅から隅までず~っと眺めていく。少し変わったものや楽しそうなものには、ついつい興味を持ってしまう。そして選んだのはショコラセット。まぁケーキセットのケーキの替わりがチョコレートというだけだが、面白そうで選んでしまった。
ホテルメイドの5種類のチョコレートにあんずのセミドライが添えられている。1枚1枚が香りや食感まで違い、楽しくて、とても贅沢なコーヒータイムになった。これならウイスキー片手に楽しむこともできそうだ。
内装はとても重厚でオーセンティックな雰囲気が漂っている。カウンターに目をやると、カウンターバックに酒瓶が並んでいるのだが、その下がガラスの冷蔵庫になっていてグラスが丁寧に並んで冷やされているように見える。
あとで知ったことだが初代のチーフ・バーテンダーはミスター・マティニと呼ばれた伝説のバーマンで、このBARは彼が自ら設計したものを復活させたのだそうだ。僕はこんなBARの小話が大好きだ。今度来るときは、迷わずマティニをオーダーしよう。
Pレスホテル東京 palacehoteltokyo.com