バニラとかサラダボウルとか
ある日、いつものように近所の小さな書店に立ち寄った。そういえば、と思い出して一冊の本を探してみることにした。最近気になるドラマがあるのだが、その原作小説があるはずなのだ。
え~っと誰だっけ?と独りごとのように、スマホで作者の名前や出版社を確認して、文庫本の棚を探した。でも見つからなかった。あるとすれば、やっぱり大きな書店かなぁ。
この書店にも映像化が決まった書籍の専門コーナーもあるのだが、そこにも置いてない。つまり、このドラマはあんまりヒットしてないのかなぁ、どうやら僕の個人的なブームに過ぎないのかもしれない・・・。
ということで今回は、僕が面白いと思ったふたつのTVドラマ(しかもNHK)のお話。そうだな、どちらも「心にしみるドラマ」ってことかな。同級生の中にも観ている人はきっといる。そう、あのドラマのことだ。
まずひとつめ。そのドラマを知ったのは、たしか番宣だったと思う。出てきたケーキの画像(ケーキを仕上げる映像)が、とてもイケてたのだ。NHKの夜ドラといって月~木15分の(遅い時間帯の)短いドラマらしい。
初回はいきなり、ケーキショップのキッチンでたくさんのケーキを仕上げ、丁寧にショーケースに並べるシーンから始まった(これがとても美しい映像なのだ)。
主人公(女性パティシエ)のケーキ店がにぎわう話のように見えたが、それは経営不振でクローズする日で、つまり彼女の夢が破れた日、そんなことらしい。
そこから物語が始まる。クセの強い料理研究家のオバサンが現れ、2人はつぶれた店のキッチンで「たった一人のためのお菓子教室」を開くことになる。やってくる生徒は、それぞれ心に痛みを抱えていて・・・まぁそんなストーリーだ。ケーキは大事なファクターだが、料理のドラマではない。
そんなお菓子教室が硬く閉ざされた心のとびらを開け始める。観ていると、じんわり心が暖まっていく。いいドラマだ。だから、原作小説を読みたくなったのだ。どうやら続編もあるようで、そのタイトルはいずれも「バニラな〇〇」という。
たぶんコロナの始まりのあたり、外出自粛の縛りが激しかった頃だと思う。することがなくて、やたらと番組録画を始めた時期がある。NHKの番組がけっこう面白いと知ったのはそんな頃だった。民放のテレビっ子世代として育った僕にとって、それまでのNHKは遠いチェンネルだったのかもしれない。
とはいえ、コロナムードの終焉とともに視聴時間は減っていったから、NHKは再び遠い存在に戻っていた。そもそもドラマには(大河ドラマは別にして)あんまり興味もなかった。あのカムカム以降は、朝ドラもご無沙汰している。
ところがあるとき、家内が観ていた「宙わたる教室」というドラマに、僕も強く惹かれてしまった。ラストはちょっと感動して涙したほどだ笑。まぁそんなことがあって、それ以降は新しいやつが始まる時だけ、ちょっと試聴する気分で覗いてみるようになった。
さて、ふたつ目はちょっと異質なドラマだ。主人公はミドリ色の髪の女性警察官(ちょっと破天荒かな)そして訳あり気味な中国語通訳人だ。つまり二人はバディーという設定なのかな。描かれるのは、そんな二人が遭遇する外国人居住者たちの事件だ。
外国人といっても欧米人はいない。ワンさん、ミン、ティエン、スヒョン・・・そんな名前のアジア系の人たち、しかも弱い立場の人たちとして描かれる。そんな人たちの暮らしや人生、トラブルや悲哀を丁寧に描いて、異国で生きていく現実を教えてくれる。
タイトルには「サラダボウル」というワードがある。「東京はさ、人種のサラダボウルだよ、いろいろ違う人たちがそのまま存在しているサラダボウル」そんなセリフも出てくる。いろんな人種や異文化の共存の現実ということかな。
劇中に出てくる多彩な「食」もそんな文化の象徴なんだと思う。そんな料理が随所に出てくる。前述の「バニラな」に出てくるのはきれいな洋菓子だが、ここに出てくるのは名前も分からないような異質な食べものばかりだ。
とはいえ主人公が、それを笑顔でパクパク食べていくシーンに、なぜか癒される。異文化へのリスペクトは大事だ。偏見の色眼鏡が一番ダメってことかな。彼女の食がその距離を縮めていく。
ちなみに、バインミー(フランスパンを使うベトナムのサンドイッチ)がとても美味しそうだった。ベトナム戦争が終わり、多くのベトナム人が米国をはじめとして世界中へ移住したらしい。その結果としてバインミーは世界各国で愛されるサンドイッチになったのだそうだ。
人間世界は複雑で難しいことばかりだが、美味しい食べものは簡単に国境を超えて馴染んでいくんだね。
この原稿を書いている段階では、ふたつのドラマはまだまだ中盤だ。たぶんこれから、それぞれに佳境に入っていくのだと思う。主人公はともに女性なのだが、できればハッピーエンドにしてもらいたいと切に願っている笑。
余談だが、本日無事に「バニラな」の原作本をゲットした。あちこちの書店で探したが結局見つからず、アマゾンで調達することにしたのだ。でも読むのは番組が終了してからにしようと思う。今はドラマの方が面白いから、ね。