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2023年06月09日

舌の記憶「こんなところに名店が」

東京は、やきとりが旨いと思う。もちろん有名な店は旨くて当たり前だが、どんなところで食べても外れがない、と思う。やきとりには大衆的な居酒屋の定番メニューという顔もある。また一方で、秀逸な専門店の芸術のような和食の一品という顔もある。居酒屋へ行く機会がめっきり減って、めったに食べることもなくなったので、どうせなら、出来れば専門店で、ホントに旨いやつを堪能したいと思ってしまう。そんな年齢ということだろう。
いつだったか、六本木ヒルズで食事したときに、とある焼鳥専門店(目黒にある予約のとれない名店)の「分店」を見つけた。まだ新規開店したばかりだったが、いかにも高級店という面構えをしていて、カッコよすぎて入りにくそうな店だった。美味しいのだろうが、こんな店では緊張しそうだ笑。やっぱり焼鳥屋には、気軽さが必要だとおもうけど・・・。
ちなみに、この店はいつの間にか閉店し、同じ系列の焼鳥店(これもたぶん高級なやつ)に衣替えしていた。やっぱりなぁ、美味しいだけではダメらしい。

今日のお題は銀座の「Bードランド」という焼鳥屋さんのお話。日本で初めてミシュランの星をとった、やきとりの名店だ。歴史があるから、もう老舗の仲間入りだろう。店名は、ニューヨークにあった往年のジャズクラブの名前を模したのだそうだ。ジャズが流れる焼鳥屋だからと、とりあえず決めたような、意外ないきさつらしい。
銀座の数寄屋橋交差点にあるのだが、住所のビルがなかなか見つからない笑。見つかっても、今度は入り口が分からない。そんなひどい立地にある。地下鉄へ降りていく階段の途中に、つまり地下に、そのビルの入り口があり、狭い入り口から少し行ったところに、このBードランドがある。
さらにBードランドの向かいには、つまり薄暗い通路を挟んだ反対側には「Sきやばし次郎」がある。某アメリカ大統領が行った、あの有名なミシュラン3つ星の寿司屋だ。ふたつの名店が並ぶには不似合いな地下街なのは間違いない笑。

Sきやばし次郎がそうであるように、名店と呼ばれる店は、玄関先にも品があって、入口以外は店内が見えず、ミステリアスで入りにくいものなのだが、Bードランドは全く違う。ほぼ全面ガラス張りで、店内は丸見え。ここまで開放的だと、むしろ居心地が悪いんじゃないかと思うくらいに、すっぽんぽんだ。
そんな店内の中央はオープンキッチンで、さらに、その中央に、舞台のような小さな焼き台がある。舞台には今日も、店主であるW田さんが立っている。
予約したカウンター席は、W田さんの真横あたりで、彼の手元のマジックを見ながら、食事できることになった。コースに組み込まれた様々な商品に驚きながら、時間を忘れて食べることに没頭していた。W田さんの炎に向かう姿は美しくて、凛としている。焼き台の下にも皿があって、その皿を使いながら余熱で火を通す神業をずーっと眺めていた。ジャズピアノを演奏するアーティストの手先を観ているような気もする。

4種類の前菜からコースがスタートする。次に出てくる鶏レバーのパテ、そして、ささみのバジルソースに、思わず唸る、旨い。そして串焼きへと続いていく。若いスタッフは皆んなW田さんのお弟子さんなのだろう、キビキビと、でも笑顔で丁寧に商品を1品ずつ届けてくれる。
どれも美味しいのだが、僕にとっては、ぼんじりの旨さが格別だった。最後の小さな親子丼やプリンまで、飽きることなく楽しい時間が過ごせる。
Bードランドは、おてなしの焼鳥屋だと思う。自分で食べて旨いと思うのは、どこも同じだろうが、大切な人を招待できる焼鳥屋は多くない。その人がひとつひとつの商品に驚き、喜ぶ横顔を見つめる楽しさは、ここだけの特徴のような気がする。

この店 ginza-birdland.sakura.ne.jp/
ちなみに、その系列店が都内に何店かあるのだが、僕のおすすめはこの店だけ。

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