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2023年08月04日

その場所からの雲海が見たくて

座席番号は25番のB列だった。てっきり通路側だと思っていたら、3列シートの真ん中だった。そうか電車じゃなく飛行機だ笑。窓際のA列なら「窓からの景色」、通路側なら「横に広い空間」という特典がある。いつもなら窓際は家内で、通路側が僕だ。
3列シートの場合、一番中途半端なのが、この真ん中の席だ。特典は全くない。両サイドに気を使って、肘の置き場所なんかに気を使ってしまうし、隣が見知らぬ若い女性なら、なおさら苦行だ笑。この日の隣のC列は、ずばり若い女の子だったから天を仰いだ。フライト時間の1時間半は、黙って下を向いて本を読むしかなさそうだ笑。
しばらく本を読むうち、窓際の家内に促されて、窓の外に目をやった。ちょうど翼の上あたりの景色なのだが、真っ青な空に、きれいな雲海が広がっていた。まぁこんな景色は空の旅の特典、いや窓側A列の特典なんだろうと思う。
詳しくは分からないが、登山をする人なら山の雲海の美しさは当たり前なのかもしれない。地上からは雲や霧にしか見えないが、山の上から見た雲海は全く違うものらしい。

今回の旅の目的のひとつに、そんな「雲海」がある。それは、今見ているような飛行機からの青い空のやつではなくて、日の出の時刻に、谷にかかる壮大な雲海を、ちょっとした「ある場所」から眺める景色だった。つまり山の雲海のことだ。
その景色はけっこう有名で、以前からとても興味を持っていた。とはいえ、その場所はとても遠いから、そうそう簡単には実現しなかった。その雲海が見れる場所は、北海道のトマム、そして「ある場所」の名称は「雲海テラス」という。上の写真はそのポストカードだ。
かつて経営破綻したトマムは、そもそも冬のリゾート地で、最盛期は数本のリフトと1本のゴンドラで、山頂付近(1100mくらい)までスキー客を運んでいたそうだ。破綻からの再生を始めた頃、ゴンドラのメンテナンスを担当していた従業員が、山頂から見える「雲海」を夏の目玉観光にできないか、と発案したらしい。
お金はないから、砂利の一角にイスを並べるだけの「山のテラス」という名称で実験が始まり、翌年から「雲海テラス」として本格稼働していったそうだ。その後、何度も施設の整備を重ねて、いまでは、シーズン120万人が訪れる、ここトマムの夏の代名詞になった。
とはいえ、実施期間は5月から10月、営業時間は朝4時から8時まで、しかし雲海の発生確率は4割しかない。絶景を見るにも運が必要なのだ笑。今では専用のWebサイトがあって、施設の詳細はもちろん、翌朝の雲海の発生確率(雲海予報)などを公開している。
●公開されている「PR用」動画

この日の朝、スマホのアラームがけたたましく鳴って飛び起きた。まだ3時だ笑。この日の雲海の発生確率は30%、つまり「まぁダメだろう」って予報だった。まぁ観れないとしても、朝の散歩にはベストだと思っている。実は僕にとっての興味は、雲海というより、その場所、つまり施設の方だからだ。
集合場所のフロントロビーから、送迎バスに乗るらしい。3時30分の出発時刻には、ものすごい行列になっていった。早めに並んで大正解だ。迎えに来たのは60人位が乗る大型の路線バスみたいなやつだった。それが順に何台も到着して、つぎつぎに人を運ぶ。後から知ったことだが、この巨大なリゾート地にはたくさんのホテルがあるから、雲海を目指す人の数はハンパないのだ。まぁ120万人だからね笑。
専用パスカード(いわゆるファストパスかな)を持つ僕たちは、優先的に案内され、ほぼストレスなくゴンドラに乗れる。とはいえゴンドラの進行方向(山頂)は、すっかり雲の中だった。地上とは違う天候、ということだ。

雲海テラスというのは、ゴンドラの到着地にある専用の施設の名前だ。建物から何層かの展望デッキがせり出していて、そこから(運が良ければ笑)雲海の絶景を見下ろせる施設だ。でもやっぱりダメだった。目の前は霧に包まれた状態で、遠くの景色は全く見えない笑。
ごの施設から、遊歩道が続いていて、そこに「雲海を楽しむスポット」が、6か所ほど設けられている。どれもWebに紹介されているやつで、とても魅力的だ。例えばクラウドウォーク、クラウドバー、クラウドプールといった名前が付いていて、どれも「映える写真」が撮れる人気の場所だ。
僕たちも順に歩いて、渡って、遊んできた。もちろん写真も撮ったが、どれもモノクロに見える。まぁ霧の中ってのは、そんな感じなのだ笑。ひと通り歩いてテラスに戻ってきたのだが、やっぱり雲海は見えない。ホテル発信の「雲海予報」は的中していた。まぁ分かっていたことだから仕方ない。
少し並んでカフェで一服だ。売っているのは、これまた「映える」メニューばかりで、みんな楽しんでいる。僕たちも、雲イメージの綿あめのソーダや、雲のマシュマロを浮かべるホットチョコレートを片手に写真を撮ってきた。
帰路のゴンドラで山を下りる途中、雲から出たころだ、向こう側の山の裾野あたりに雲海らしきものを見つけた。当日のブログによれば、どうやらこれも雲海だったらしい。雲の中の山頂からは見えなかったのだ。まぁ、とりあえず拍手かな笑。
●この日の失敗アルバム(タップして右へ)

実は、翌朝も再び「雲海チャレンジ」をしてみるつもりだったのだが、予報によれば確率20%らしい。予報の精度は自覚したからチャレンジは取りやめにした笑。たくさんのスポット巡りの散歩は楽しかったから、それで十分だ。
ちなみに、帰路の小松便の座席は、行きと全く同じ25番B列だった。そして同じように、この日も青空の下に雲海の絶景が広がっていた。しばらくすると、雲が薄くなって島の景色が見下ろせた。佐渡島かな?、と家内は主張しているのだが、正解は分からない。
これから先、飛行機での旅に出るとすれば、またこんな景色が見れるのかもしれない。そしてそのたびに、トマムの雲海の失敗談を思い出して、二人で笑うんだと思う。
●雲海テラス公式サイト snowtomamu.jp/summer/unkai/

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