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2023年07月28日

BARの夜話「ウイスキーのスペル」

ある日のこと、仲のいい仲間たちとBARで飲む機会があった。友人の某はシングルモルト(スコッチ)にハマっているようで、スタッフとの会話を楽しみながら、アレコレお薦めのシングルモルトを注文していった。彼は一人で4~5種類ほど飲んだかもしれない。
この日も、いつものように割り勘だったよ、と後日聞かされた彼は、さかんに恐縮していた。それはそうだ、みんなの倍以上は飲んだんだからね笑。酔うと記憶がなくなる癖は今も昔も変わらない。たしかにあの晩は、こいつ、次々に飲んでやがる、とは思ったのだが、まぁ仲がいいメンバーだから、そんなことは何の支障もないんだけど。
僕は僕で、ジントニックを注文していた。僕にとっては初めて訪れたBARでの儀式みたいなもので、そのBARの姿勢を計ってみたりするモノサシだ。まぁこんなありきたりのカクテルなのだが、実は奥が深いと思っている。この顔ぶれでのせっかくのBARだから、その晩は、旨いカクテルでも飲みたいなぁ、と思っていたのだが、この儀式の結果、それは止めることにした笑。だから、2杯目は仕方なくウイスキーを選ぼうと思った。

隣で、せっせとストレートグラスを傾ける某の横で、あらためてメニューを開いてみた。まぁホテルのBARだから延々と酒のページだ。昔と違って、今やシングルモルト全盛だ。ここのメニューにも専用ページに代表銘柄が並んでる。ページをめくり、カナディアンやバーボンを見つけて、他の仲間と「懐かしいよなぁ」などと話していた。知ってる銘柄を見ると、若造だった当時のことを思い出す。良いことも悪いことも酒と一緒に流し込んでいた頃だ。
そういえば、BARに行き始めた最初の頃は「ウイスキー」ばかりだった。もちろん若造にとって高い酒は無理だったから、スタンダードのスコッチばかりだったと思う。飲みやすいカナディアンもこの頃だ。たしかシルクタッセルってやつがお気に入りだった。これはアイリッシュだとか、同じバーボンでもライ(麦)ウイスキーはこうだとか、コーンウイスキーってやつは・・・とか、ブランド名や蘊蓄(うんちく)をたくさん覚えて意気がって、飲んでは失敗し、旨いやつを見つけては痛飲したり、そんな時代だった。

中でもバーボンには長い期間ハマっていた。もう銘柄など覚えていないのだが手当たり次第という感じだった。仕事でアメリカ本土へ行くようになった頃と重なるからだと思う。歴史が浅い「移民の国」のナショナリズムの中には「これぞアメリカ」というモノがたくさんあった。そんなバイタリティーが好きだった気がする。
ウイスキーはWhiskyと表記するが、アメリカの酒「バーボン」だけはWhiskey、つまり末尾が「key」になるんだ、というウンチクを、たぶん一番多く使った気もする。ヨーロッパとは違うんだぜ、というツッパリかなぁ。でも正しくは、スコッチ(スコットランド)ウイスキーとアイリッシュ(アイルランド)ウイスキーの表記の違いらしい(諸説ある)。アイルランド移民がアメリカでウイスキーを作り始めた歴史があったからだというハナシだ(これにも諸説ある)。アメリカ好きの僕は、上っ面の知識で吹聴していたんだろう。
熟成というのは12年くらいから本物っぽくなるのだが、バーボンは8年あたりだと思う。貯蔵するオーク樽の内側を「焦がす」こと、というより「けっこう焼く」ことによって、強い風味が短期間で付くという一面もあるらしい。歴史あるヨーロッパと違って、新しい国(アメリカ)の酒飲みにとっては12年も待っていられない。そんなこと必要ないぜと、とアメリカ人は言うのかもしれない。せっかちな僕が好きなのは、きっとそんな理由だ笑。

さて、このBARのメニューの中に「ブッカーズ」を見つけた。驚いた。まぁ僕たちの世代にとっては「幻のバーボン」であり「バーボン党の垂涎の1本」なのだ。おそらく生産量が少ないから、当時は正規ルートがなくて、並行輸入品しか手に出来なかったんだろうと思う。
それは、現在の一部のシングルモルトも同じだ。とはいえ流通量が過少で、欲しがる人が多ければ、結果として高額になってしまう。昔のブッカーズはそんなバーボンだった。だからこの日、もちろん迷わず注文した。まぁ大人買いだ笑。
この日に飲んだやつ(少量生産だから個性があるらしい)は、??年のやつでアルコール度数は63度もあった。まぁ歳のこともあってロックにしたのだが、独特の強くて深い味わい、後から鼻に抜ける甘い香り。旨んまいし、きれいな酒だ。
そんなことがあったからなのだろうが、後日自宅で、アイラモルトを飲むと、なぜかバーボンを思い出す笑。あの独特の臭いや強い個性が、なぜか連想を誘うのかもしれない。どうやら最近になって、ブッカーズを製造している会社を、日本のS社が買収したらしい。気軽に手にする日が来るのかもしれない。でも僕は、あの貴重なバーボンのままにしておいてほしい、と切に願ってる。

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