本の時間「少し腹がでてる中年の狩人」
自宅の駐車場の車の真下に、黒い猫がもぐり込んで昼寝をしている。おいおい危ねぇぞ、エンジンかけられねーなぁ、と困り顔で近づくと、僕の気配を察してゆっくり起き上がり、まるで「フン」とほざくように悠々と逃げていく。
明らかに肥満で太っちょの彼は(彼女かもしれないが)耳の先端がカットされているから、いわゆる「地域猫」だ。飼い主はなく地域のボランティアに世話してもらいながら屋外で暮らす猫、ということかな。耳カットは去勢手術済みのサインらしい。
わが家に住み着いているわけではない。あるとき気付くと、庭や玄関先に気まぐれのように登場するだけだ。最初の頃は驚いたが、最近はその頻度が増えた気もする。肥満猫の昼寝の姿は、妙に人間臭く(おっさんぽく)見えたりして少し面白い。
猫だから笑顔という訳にはいかないが、太って丸い体は、愛嬌があるように思えてしまうのかな笑。今は梅雨どきだから、雨の日はどうしてるのかなぁ、などと気になることもある。
テレビの世界にはいわゆる「デブキャラ」と呼ばれるタレントさんがいる。たとえばオーバーオール姿の石ちゃんは、典型的なキャラクターかな。最近はご無沙汰している気もするが、その存在感は抜群で、見ているだけで笑みがこぼれる。
彼があるとき、愛車の真っ赤なミニ(今のBMWミニではなく昔のミニクーパー)に乗ってさっそうと登場した。石ちゃんの乗り降りは大変そうだったが、見た僕は、あぁミニってあんなに小さいのに、車内はあんがい広いんだと感心して、それ以来ミニのファンになった笑。
最近では、体重の増減実験でカラダを張るチャンカワイが気になっている。世の中のために頑張るチャンの表情はいつも真剣で面白い。デブキャラと書いたが、丸い体や丸い顔には、何やら安心感や近親感を感じるものなのかもしれない。
スリムでカッコいい主役や人気のゲスト俳優と同時に登場する彼らは、明らかに「対比のための存在」なのだろうが、視聴者にとっては、どこか等身大で欠かせないキャラなのだと思う。
今回登場する小説は、好きな作家さんの刑事もので「狩人シリーズ」と呼ばれているやつだ。何年かぶりの新作なのだが、読み終えたとき、なぜか前作や前々作が気になって、再び読み返したりしていた。それくらい面白かったのだ。
主人公は、新宿署の筋金入りのマル暴刑事で、年齢はたしか40代つまり中年で、少し腹が出ていて、汗臭くて汚い感じの刑事として描かれている。優秀な刑事だが、褒めらると、それを否定してしばしば自虐的な発言をするタイプ、まぁひねくれ者かな。だから僕はシンパシーを感じるのだと思う。
シリーズとはいえ、物語の序盤には、主人公の人格やキャラクターを浮かび上がらせ、読者に紹介するようなパートがある。訳あって若い刑事に尾行されるのだが、その稚拙な尾行に腹をたて、やくざ事務所を巻き込んで、その若い刑事をつるし上げる。
そんな短いエピソードで、本人の外見と内面(性格)、やくざ世界への態度、正義感や責任感、仕事への矜持が見事に描かれている。まぁ外見はともかく、実に魅力的な主人公なのだ。実はその若い刑事はもう一人の主人公として、どんどん彼に影響を受け、成長していく。
誤解のないように書いておくと、彼はけっしてデブキャラではない。たしかに外見的には「丸い」イメージだから、ストーリーに登場する悪の「鋭角」なキャラクター達を際立たせているようにも思える。
あくまで彼は、極悪やくざや凄腕ヒットマンを相手に戦う孤高の存在で、タイトル通り獲物を追い詰めていく狩人だ。ただ、身体にまとった脂肪の分だけ、どこかに弱さや優しさがある。それがとても魅力的なのだと思う。
中年で腹が出た狩人は、何かと味があるのだ笑。