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2025年02月21日

本の時間「悪いやつらのチームプレー」

今回は2冊の小説(文庫本)のことを書こうと思う。ともに映像化され、相次いでメディアにリリースされていった。つまり一連の広告によって知った作品だ。多額の広告費を掛けるのは、小説としてではなく「映像」だからだと思う。

上の画像でタイトルを見れば、あ~あれかぁ、と思ったと思う。読んでなくても「知ってる・分かる」ということかな。多くの同級生たちの目に留まったのは、有名な俳優さんたちが並ぶ広告用のビジュアル(写真)だと思う。広告の巧みさ(メディアへの露出)というのは、つくづく凄い効果を生むのだ。
ちなみに映像と書いているが、写真の左のやつは某ストリーミングメディアのドラマ、そして右のやつは劇場版(映画)だ。
一方の舞台は現代で、もう一方は戊辰戦争だから、まったく違う時代の話なのだが、共通点としては犯罪者、つまり「悪いやつら」のハナシで、その「チーム」のシゴトが描かれることかな。まぁ男臭いストーリーなのも同じだ。
僕の場合は、キャスティングされた俳優さんたちの顔を思い浮かべながら小説を読めるから、とっても便利だ。いちいち役名を覚えなくてもいい笑。

地面師というのは、土地の所有者になりすまして、多額の代金をだまし取る不動産詐欺を生業(なりわい)にするプロの者たちの呼び名だ。小説や映画ドラマには時々出てくる隠語だから、知っている人も多いかもしれない。この物語は「だます側」の地面師たちを主人公として描いている。
本作は、2017年に実際に起った有名な不動産詐欺事件がモチーフになったと言われている。某・大手住宅メーカー「S社」が地面師グループによって55億円を騙し取られた事件だ。当時はマスコミが一斉に騒いでいたことを僕も思い出した。
もちろん詐欺の規模が大きいから、首謀者だけでなく犯罪者チームによる大掛かりなシゴトということになる。本作では、その個性的なメンバーを丁寧に描き、詐欺の顛末を克明に語っていく。
所詮は詐欺の手口に過ぎないとか、騙される側の会社だって不動産のプロ集団だから、そんなことは不可能だろうと思いながらも、どんどん物語に引き込まれていく。出てくる専門分野のハナシも、エサになる物件のハナシもリアルだからだ。
物語の縦軸は詐欺の顛末だ。一方横軸は、交渉役の拓海(たぶん主人公)の目線や人間模様かな、これがストーリーを膨らませる。まぁこれ以上はネタバレだ。

さて、もう一方の時代小説の主人公たちは、悪事を働いて死罪が決まっている罪人たちだ。殺人、火付け、賭博などなど、それぞれ罪状が違う11人が、無罪放免の夢をもって命がけのミッションに立ち向かう。
舞台は戊辰戦争のさなか、奥州越列藩同盟と新政府軍(官軍)との狭間で揺れる新発田藩だ。官軍への寝返りを画策する家老が、藩の生き残りをかけた一計を企てる。この11人の罪人たちを「おとり」にした時間稼ぎの戦闘、そんな舞台設定だ。
とまぁ、そう書くとカッコいい戦争モノのような印象を持つかもしれないが、本編が描いているストーリーは全く違う。人間世界は不条理で勝手で、読んでてとても気分が悪くなる物語でもある。本編で描く「悪いやつら」はこの罪人たちではないということかな(こっちもネタバレ厳禁)。

小説に登場する土地や場所、その歴史や地名に聞き覚えや記憶があると、目に浮かぶシーンにちょっとした「感情」が加わってしまう。
たとえば昨年、たまたま高輪ゲートウェイ駅で下車したことがある。ガラス張りの近代的な駅舎だった。単純に山手線の新駅を見たかっただけだが、駅の両サイドには建設中のビル街が並んでいて、これから発展するエリアなんだろうなぁ、という印象だった。
本作の詐欺の餌になる土地は、ちょうど同じエリアだったから、読んでて不思議なリアリティーに包まれていた。
ちなみに「戊辰戦争」という名前には感情が揺れることがある。僕のルーツには会津があるからだ。亡くなった父親がそうであったように、いずれ会津をゆっくり訪ねたいと思っている。大人になってから学んだ「戊辰戦争の悲劇」は、試験勉強のそれとは全く別物だと知ったからだ。
本作は越後のハナシだが、読んでいて胸がぎゅ~っとすることがいくつもあった。フィクションとはいえ、プロの文章には映像とは異なる不思議なチカラがあるということかな。

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