舌の記憶「焼き貝が旨いヒミツ」
庭でバーベキューすることがある。こんな年齢になると肉以外が欲しくなって、魚介や野菜をうまく焼きたいと思うのだが、なかなか難しい。特に「貝」はやっかいで、食べごろがいつなのか分からないから、ついつい焼き過ぎて、パーにしてしまう。ブームだから仕方ないが、漁港をイメージしたような店で、豪快な浜焼きを見ることも多いが、実は「美味しい焼き貝」に出会うことは少ない。どこも焼き過ぎで、醤油が煮詰まって塩辛い状態ばかりのように思う。
この店、焼き貝がウリの「Aこや」は恵比寿にある。貝料理なのに東京?と、驚くかもしれないが、予想に反して種類も豊富、リーズナブルで、ものすごい繁盛店だった。「貝」専門の問屋がやっているらしいから、貝の専門料理店と言っていいと思う。予約してあった席はカウンターだった。目の前に立つ店主は、ぶっきらぼうだったが、かつてサッカー代表だった中田ヒデに似ていて、そのことを告げると、微笑んで、それからの対応が良くなった気がする(笑)。今日は彼のおすすめを楽しむことにした。
ボリューム満点の活貝の刺身3種を食べ終えたころ、目の前で貝を焼き始めた。どうやら大きい万寿貝だ。カウンター客の目の前に焼き台があるので、火にかけた貝が開くところなどが見えて楽しい。使っている道具は、先がとがったラジオペンチだ。なるほどこれなら細かい作業ができる(笑)。開いた万寿貝をペンチではさみ、いったん火から降ろして、なんと、貝の中の「汁」を捨てている。旨味を捨てるなんて、もったいないと思ったのだが、さすが専門店、間違っているのは僕の方だった。
あとから知ったのだが、焼いて開いた段階で出ている「汁」は、単なる「水」つまり、海水の残りや砂出しの時の塩水で、旨味とは関係ないのだそうだ。これを煮続けたら、塩辛くなるのは間違いない(笑)。再度、焼き台にのせた貝は、火が通るとともに、ぷっくりと膨らんでいく。ここが食べごろ、ということらしい。ここに出汁と酒で割った醤油を少し回して、薫り高い焼き貝の出来上がりだ。プロが焼くと、やっぱり旨い。今度のバーベキューで、試してみようと思っているのだが、火加減はどうだったんだろう、聞くのを忘れていた。素人の僕には、こっちの方が問題かもしれない。