本の時間「魅力あふれる男たちのハナシ」
TBSの世界遺産は好きな番組なので、しばしば観る。というか、いずれ観るために録画しておく笑。観たのはイタリアの特集らしく、そのタイトルは「空から見るイタリアの世界遺産」となっていた。冒頭から見事な空撮映像が続いて、その美しさに息をのむ。性能著しいドローン撮影というやつだ。
こんな年齢になると、いずれヨーロッパを旅したいとか、世界一周を・・・とか、誰もがそんな「夢の旅」を妄想するのだと思う。僕の場合は、イタリアってことだ。少し前ならミラノやローマと答えたと思うが、今なら、ヴェネツィアとかジェノバになる。同じ理由でピサやアマルフィーも加わるかな。要するに海洋国家だったところだ。世界遺産や観光名所は、あまり関係がない笑。
ここで「今なら」と書いたのは、ある小説を読んだ直後だからだ。つまり(いつものことだが)大きなストロークを受けると、旅の目的地すら、やっぱり影響されてしまう笑。この小説のタイトルは「十字軍物語」、その作者は塩野七海さんだ。
まぁ、今回も「本にまつわるハナシ」を書くのだが、タイトルから想像するような、宗教や民族のことに触れるつもりはない。そもそも僕が好きなのは、彼女の小説で描かれる人間たち、もっと言えば「魅力的な男たち」のことだ。
作者の彼女を知ったのは、その代表作「ローマ人の物語」を読み始めたころだ。長編小説が苦手な僕が、勘違いで読み始め、それが次々に何巻も出版されて(最終的には文庫本で43巻もある笑)、結局10年がかりで読み終えた小説だった。面白かったのだ。
当時、独立したばかりの僕にとっては、一種のビジネス小説(まぁ秀逸なリーダー論かな)のような読み方をしていたと思う。司馬遼太郎氏による小説(の登場人物たちの描き方)と、ある意味で共通点がある。読者が知りたい、と欲することを書くから面白いのだ。それが小説の本質で、学者さんが書く歴史書では、こうはいかないのだと思う。
さて、今回読んだこの小説(これも4巻ある)の舞台は、ご存じのように中世ヨーロッパの100年ほどの間に起った史実がベースになっている。歴史にはつきものの戦争(戦闘)で言えば、第1回から第8回までを、場所で言えば大都市アンティオキアの制圧から、最後の拠点(アッコン)の陥落までの物語だ。
それを登場人物たちの人間ストーリーで観ると、その背景にあった「カノッサの屈辱」から、撤退後の「テンプル騎士団」のかなり悲しい最期までを綴っている。色んな立場の「王さま」も、ミリタリー(軍人)もシビリアン(ここでは政治家)も、彼女にとっての登場人物だ。まぁいつの時代も「人間というやつは」・・・、とストリーが展開する。
塩野さんはきっと、ミリタリー(軍人)が好きなのかもなぁ、と思うことがある。戦う指揮官の描き方が素晴らしいのだ。そういえば「ローマ人の物語」に登場する古代のローマ帝国の皇帝は、シビリアンの長であると同時に、ミリタリーのトップでもあった訳で、戦うリーダーには実力も、人気も必要だったのは間違いない。それは中世ヨーロッパも同じだ。
彼女いわく、優れたリーダーとは、優秀な才能によって人々を率いていくだけの人間ではない。率いられていく人々に、自分たちがいなくては、と思わせることに成功した人である・・・。と、どこかで読んだことがある。きっと彼女は「そんな魅力を持った人が好きなのだろうなぁ」と思う場面がたくさん出てくる。リーダーがリーダーとして輝く舞台は、どうしてもWAR(戦闘)のシーンなのかもしれない。
一方、嫌いな人物に対しては、手厳しい。(僕の勝手なイメージで言えば)ねっ、わかるでしょう?、この〇〇の王さまは、こんなにダメなやつでね、とか、そんなど~でもいいことを理由に逃げたんだよ、と読者が感じるような、辛辣な表現がたくさん出てくる笑。もっといえば、大したことがないやつは、実に淡白に語り終えてしまう。
彼女は、僕たちより20歳ほど年長なのだが、「あなたはどう?」と読者の男性(僕)に呼びかけているように思うことがある。まぁそんなところもファンにとっては楽しい。特に獅子心王リチャードとサラディンの対峙は実に面白い。二人の傑出したリーダーは実に魅力的だった。敵味方の関係であっても、優れたリーダー同士は互いにリスペクトする。そんな双方の決断が、長い平和を実現する。そして、それを破るのは、いつの世も戦闘の場にいない権力者だ。なんだかなぁ。
ちなみに、ヨーロッパからエルサレムへの第1回の遠征は「陸路」だったのだが、それ以降は「海路」を活用することになる。つまり「海洋国家」の協力を得るようになる。すでに海洋国家としてイスラム圏との交易に従事していたヴェネツィア、ジェノバ、ピサなどの諸国家の利権争いが始まることになる。
宗教や国家が対立を繰り返しても、交易や経済が停滞することがないのは、歴史上の事実で、ゆえに人間世界は複雑で面白いのだ。僕が興味を持ったのは、そんな海洋国家のことなのだ。対立する国家の疲弊を尻目に、地中海世界の縦横無尽に走り回り繁栄したのは海洋国家の方だ。実は塩野さんの書籍(別のシリーズ)にもそれがある。またまた長い小説なのだが、今度はそっちも読もうと思う。
さて、イタリアへの旅のハナシだ。この4冊の十字軍物語が面白かったこともあって、僕は塩野さんのエッセーも読み始めた。イタリアに40年以上暮らす彼女のハナシは実に興味深い。話題はファッションやサッカー、そして「ニッポンの男」をズバズバ切り捨てるハナシなんかも出てきて、思わず夢中になる。ヒデもバッサリだが、あのキ〇タクもボロクソだ笑。
そんな「彼女の旅のハナシ」が、これまた面白い。地中海世界の旅の話だ。文明には国境はないが、文化には国境がある。どんなに小さくても文化は(様々なものが融合した)その国固有のものだからだ。彼女にとっての旅は、その文化を訪ねることなのだ。だから「その国の玄関」から入れ、と彼女は言う。海洋国家のそれは「港」にほかならない。電車の駅も空港も、実は正式な玄関ではないのだそうだ笑。海路とはいえ現代の大型の豪華フェリーではないことは間違いない。
獅子心王リチャードがそうであったように、小さな船で港に向かい、そこに吹く風や土地の匂いを感じ、食事や暮らしなどの人の日常を肌で感じるために、街に滞在すること、なのだそうだ。ドローンの映像を見て、いいなぁ、などと言うのは可笑しいし、パックツアーで主要な名所だけを回るのは、もってのほか、ということだ笑。
そんなの無理だろう、と僕が言うとすれば、イコール、彼女にとっては「何の魅力もない男」ということなのだと思う。まぁそりゃぁ、そうだけどさぁ笑。