六本木のふたつの街とふたつのホテル
麻布台ヒルズへ向かう地下鉄でのこと、車内のデジタル路線図に「六本木駅」を見つけた僕は、大昔の六本木のことをアレコレ思い出して、なぜか懐かしい気分になった。今回は、そんな六本木に、20年ほど前に開業したふたつの街(六本木ヒルズとミッドタウン六本木)と、そこに登場したふたつの五つ星ホテル(GとR)の思い出バナシを書こうと思う。
その昔、僕にとっての六本木は夜の町だった。六本木とか西麻布とかには、たぶんバブルの代名詞のような印象があって、30代の半ば頃の僕には近寄りがたかったと思う。東京へ行くたびに、そのエリアの話題のスポットや店には行ったと思うが、居心地が悪くて、あまり良い印象がない笑。
長い間、近寄らなかったのだが、そんな印象が、ガラッと変わったのは、六本木ヒルズの誕生だった。印象で言えば「夜の顔」一色だった街のイメージが、健全な昼の街になった感じかな。それは、数年後の東京ミッドタウン(六本木)の開業のときにも感じたことだった。
ふたつの新しい街ができたとき、ともにホテルが併設された。六本木ヒルズにはGランドハイアット東京が、ミッドタウンにはRッツカールトン東京が開業したのだ。
あくまで個人的な見解だが、Gランドハイアットは、街に溶け込んでいる印象がある。街と同じように日常の活気みたいなものを感じるホテルだったから僕はすぐに気に入った。一方のRッツカールトンは真逆だった。ある意味で街とは隔絶して「非日常」を保っている気がした。
いわゆる五つ星ホテルは「非日常」がウリだとすれば、Gランドハイアットの方が異色の存在かもしれない。僕な好きなのはそんなザワザワした気軽さなのだと思う。だから宿泊やレストランなどを使った回数でいえば、当時はGランドハイアットが一番多かったような気がする。
六本木ヒルズにはいくつかのエリアがある。森タワー(高層ビル)エリアにはウエストウォークという街があって、その5階にレストラン街があるのだが、いわゆる「空中渡り廊下」で、ホテル(Gハイアット)の低層階につながっている。利用客にとっては、ウエストウォークのレストランだけでなく、ホテルの和洋中のレストラン、ステーキや寿司、BARやラウンジへも簡単に行くことができる。だから、そんな一体感が生まれるのかもしれない。
あるとき、夕食の後に3人でBARへ行こうというハナシになった。ホテル内の案内看板を頼りに、低層階のBARへ向かった。壁だと思ったのは大きなドアで、す~っと横に開いたところに黒服のアテンド係が立っていた。
思っていたより広く暗い店内の中央あたりにバンドが入っていて、女性ボーカルが渋く歌っていた。足元灯を頼りに進むほど暗くてムーディーだ。ブース席に案内されメニューを渡されて、ようやく間違いに気づいた。実は、当時のGランドハイアットには店名にBARと付くやつが3店あった。店を間違えたのだ笑。
入ったのは、目当てのBARではなく、ジャズラウンジだった。女性向けの楽しそうなフードメニューや、シーズンドリンクも揃っていて、連れの女性2人(家内と義妹)は違和感に気付いてないから、そのままここで過ごすことにした。失敗かと思ったが、これはこれで楽しい時間だった。しかし高額のミュージックチャージも付加されていて、さっきの晩ごはんより高くついてしまった。まぁこんなこともある。
比較してはいけないが、一方のミッドタウン六本木の方にはあまり楽しい思い出がない。Dィーン&デルーカのゼネラルショップやSントリー美術館に代表されるように、街の機能はとても現代的なのだが、どこか硬質な印象で落ち着かない。レストランゾーンもカッコよすぎて足が向かなかった。
上層階のホテルRッツカールトンも同様で、泊まってみると素晴らしいホテルなのだが、どこか馴染めなかった。街が持つクールな印象に引っ張られていたのかもしれない。
フロント階(45階かな)でエレベーターを降りたとたんに、ロビーラウンジの圧巻の迫力に包まれる。本物の滝や川が流れていて、そこにバイオリン?弦楽器?の生演奏が行われている。豊かなティータイムを気どるにはぴったりだが、行儀の悪い僕には窮屈な感じかな。
別に反発心があったわけではないが、初めて宿泊した夜は、近くの乃木坂の曲がり角にある「バラック仕立ての居酒屋」へ歩いて向かった。若者であふれるその店で、焼き魚や肉豆腐を食べていた。やっぱりこっちが東京らしい気もした。
その後も宿泊をはじめとして何度か訪れた。でも覚えているのはアフタヌーンティーや、1階のカジュアルなカフェ、つまり昼の顔ばかりだ。とはいえ決して悪口を言いたい訳ではない、僕にとってのディープな六本木がここにないだけのハナシだ。
大阪も京都も、Rッツカールトンはやはり素晴らしいホテルだった。最近では日光や福岡にも進出したようだから、いずれまた静かな大人旅のときに訪ねる機会があるかもしれない。
さて、あれからたびたび六本木ヒルズへ向かうことがある。目的はまちまちなのだが、いつも街の新陳代謝が繰り返されていて、街が一体となったイベントも上手だ。街の活気はこのように仕掛けていくのだと、いつも勉強させられる。
この20年の間に弟たち(虎ノ門ヒルズや麻布台ヒルズ)が誕生した。同じ森ビル系だから六本木ヒルズは歳の離れた長男の街だ。でもこの長兄は弟たちとは全く違った魅力を今日も提供している。お兄さんは弟に負けまいと頑張るんだと思う笑。