ゴジラズの上陸
お盆の少し前のことだろうか、あるテレビCMに引っかかった。カルピスのCMだ。長澤まさみ演ずる若い母親(娘)が小さな子供(孫)を連れて、お盆に実家に帰省する。そんなひとコマに、母(祖母)と娘が静かに交わす二人の優しいセリフが秀逸だった。
世の中のたくさんのバアバとジイジは、同じような気持ちを共有したことだろう。理想的なお盆の風景とでも言えばいいのだろうか。やはりCMはよくできている。でも現実は、もっと辛くて、しんどい(笑)。確かに、お盆は待ち遠しくて、楽しい期待にあふれているのだが、毎日毎日、気力と体力をフルに絞り出し、けっこう疲れる日々が続くことになる。
二階の屋根裏の収納庫から、バーベキュー用のイスやテーブル、大きなコンロとか、テントとか、重い荷物を汗だくで引っ張り出すことから、準備が始まる。庭の雑草や芝刈りは終わった。庭掃除の途中で軒下の大きな蜂の巣を見つけて、それも駆除した。
お盆の「やりたいことリスト」が孫たちから届くのだそうだ、おそらく考えたのは母親たち(わが娘たち)だろう。去年パンクさせた子供プールを新品に買い替えたり、水鉄砲(今ならウオーターライフル)や水遊びキットを新調するために、トイザらスに走った。もちろんセミ取りカゴとか虫取りアミとかは必需品で、ケンカしないように、孫の人数分用意することになる(笑)。
新幹線の扉が開くと、孫たちが走って出てくる。直前に母親に練習させられた上手なセリフをぎこちなく披露して、バアバとジイジを喜ばせるのだが、そう分かっていても、嬉しいことに変わりはない。
僕は男ばかり4人の孫たちを「ゴジラズ」と呼んでいる。日本に上陸して暴れまわり、破壊し尽くすのが彼らのシゴトだ。玄関には子供のクツやサンダルがあふれ、床一面にレゴやおもちゃの部品が散らかる。うっかり歩くと足の裏に突き刺さる。まだヨチヨチ歩きもいるから、床から手の届く範囲に危ないものや大事なものは置けないし、気を抜けば、部屋中にティッシュペーパーやお菓子の破片が飛び散ることになる。
幼稚園児を連れてのセミ取りは炎天下の行事で、毎日かならずの日課だ。しかも今年からカブトムシまで加わって、夜も公園に出かけることになった。昆虫館とか航空プラザとか、彼らのお気に入りスポットはどこも満員で疲れるだけだし、小さい方の孫は走り疲れると「だっこ」と笑顔で追ってくる(笑)。年齢は小さいのに体重は一人前なのだ。連れて行くだけで体力を奪っていく。夜は夜で、風呂だ花火だ、ソーメンスライダー(流しそうめん)だと、気を抜く暇もない。
部屋の隅に「身長計」が置いてある。杉の間伐材を使った「背くらべ」という商品名で、一人目の孫の誕生の頃から使い続けている。孫がやってくるたびに身長を測って、線をひきメモを入れる。4人いるから線ばかりでごちゃごちゃしているのだが、この1年でこんなに伸びたのか、と毎回楽しく眺めている。孫たちの飲み物はお茶とか、ぶどうジュースやアンパンマンジュースと好みがあるようで、カルピスでの乾杯というCMからは程遠い。これがビールでの乾杯になる日まで、ジイジが長生きできるかは微妙なところだ。
ゴジラズが帰った日から、あの騒音がウソのように静かになる。でも1週間ほどはカーテンの隙間などから、ときどきレゴやおもちゃの部品が出てくる(笑)。さあ、そろそろ重い荷物を、屋根裏に片付けないとな。だから僕の腰はかならず夏に悪化する。