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2023年05月12日

本物の跳人(はねと)になるには

青森と言えば夏の「青森ねぶた」が浮かぶ。今年は3年ぶりに開催されるらしい。東北を代表する夏祭り、いや日本を代表する祭りとして、とても興味がある。それが、この宿を選んだ目的でもある。
この宿が宿泊客に提案する企画(アクティビティー)は大小いくつもあって、どれも面白そうに見える。内容もそうだが、発想や切り口や楽しみ方、そして何よりそのPRが上手だ。今回僕が引っかかった企画はいくつかあるのだが、一番の目当ては夜のショーだった。テーマは「ねぶた」だ。
青森県下には各地に大小の「ねぶた」がある。そのうち代表的なものは「青森ねぶた」や「弘前ねぷた」だろうか(ちなみに弘前では「ぶ」ではなく「ぷ」となるらしい)。宿のショーでは、青森の四季や文化を背景にして、「五所川原立佞武多(たちねぶた)」「弘前ねぷた」「八戸三社大祭」「青森ねぶた」の四つを順に紹介するストーリーになっている。
静かな青森弁(津軽弁?)の語りや懐かしい「影絵」を手作業で披露したり、最新のプロジェクションマッピングも活用する。そして宿の若いスタッフたちによる様々なパフォーマンスで、青森の伝統や暮らしや、人々の熱気を伝えるものだ。よくある温泉旅館のチープなそれではなく、驚くほど本格的なステージショーだった。

ねぶた祭りの映像、特に巨大で勇壮な山車(だし)の迫力はテレビなどでお馴染みだが、一緒にねり歩く踊り手たちのことを跳人(はねと)と呼ぶそうだ。花笠などの装束をつけた「はねと」が「ラッセラー、ラッセラー」の掛け声のもとに踊るあれだ。
足の運びが独特で、片足で左2回右2回と交互に、飛び跳ねるように踊る。まぁ、ケンケンパーのパーがない感じかな。素人から見れば、この跳ね方は半端なく大変で体力がいるように思える。本物の青森ねぶたでは誰でも飛び入り参加できるらしくて、装束のレンタルもあるようだ。とはいえ66歳の初心者の僕には、その体力に自信はないし、なにより足首の「ねんざ」を心配しなきゃならない笑。少なくとも今日は、そんな本物のねぶた祭りの予習をしたような気分だ。
照明が落ちた舞台に一人の女性が出てくる。彼女は、いわゆる物語の語り部であり進行役でもある。ショーのラストに会場の全員で踊る時間があるらしく、冒頭、そのレッスンもあった。もちろん僕は手拍子だけの参加だ笑。
●使われた各ねぶたの山車(弘前、八戸、青森)ほか(タップして右へ)

プロローグが終わり、ショーの本編が始まった。女性演者による津軽三味線の独奏と、次いで男性演者の民謡の独唱だ。ともに静かだが秘めた力強さを感じる。おそらく演者はともにプロだと思う、すごい。そして、その後の演目は全て宿のスタッフたちのパフォーマンスになる。こっちは明るく元気だ。
スタッフだから、そもそも素人集団だ。だが祭りのお囃子(おはやし)の笛、鉦(かね)、大小の太鼓などの演奏は迫力があって本物レベルだ。どうやら、15年前にスタートしたときから、宿の若いスタッフたちが、一から楽器の演奏技術を習得してきたらしい。スタッフは入れ替わっているはずだから、たぶん日々練習なんだろうと思う。すごいなぁ。
そして、舞台に登場する巨大な山車も、本物の「ねぶた師」の手によるホンモノの作品らしい。光の演出も効果的なのだが、やっぱり本物の迫力は凄い。40分くらいのステージに見とれていた。色んな意味で感動ものだった。
価格は安いが、有料のショーだから、詳しい内容については控えるが、単なるショーの域を超えて、青森びとの息吹が伝わる出来だと思う。考えれば宿のスタッフも、この土地に暮らし、祭りの経験を重ねた本物の青森びとだ(だから標準語もなまってる笑)。

ちなみに観客は、終了時に「へばね」という方言を教わる。どうやら津軽弁?で「じゃあね」「またね」という意味らしい。会場を出るとき互いに、覚えたての「へばねぇ」を交わすのだが、実は、翌日のチェックアウトの際にも「へばね」を連呼する。見送る宿のスタッフが「へばね」と大きく描いた旗を振って、出発する車や送迎バスを送りだしてくれるのだ。まぁ離島の港の見送り風景にも似ていて、ちょっと嬉しくなる笑。
当初は仕事上の興味でスタートした旅なのだが、こんな体験をしたから、いつか、本物の夏の青森ねぶたに参加してみたくなった笑。でもあの跳人(はねと)になりきって楽しむには、ダイエットと足運び(ケンケン)の練習が必要なのは間違いない。もちろん念入りな足首のストレッチもね。

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