本の時間「最強ヴェネツィアの栄枯盛衰」
水の都ではなく「海の都」
今度の週末はどう?、イタリア旅から帰ってきたばかりの弟夫婦がやってくることになった。どうやらお土産を買ってきたらしい。まぁそれは表面上のことで、日本に戻ったらイタリアの話を聞かせろ、写真も見せろ、などと強引な約束をしてあったからだ笑。
ミラノ、ベネチア、フィレンツェ、ローマ・・・そんな旅程だったはずだ。9歳違いの元気な弟たちと違って、僕たち老夫婦の場合は、もはや海外旅行への興味も無くなってしまったのだが、イタリアの話(特にベネチアの話)を聞くのはちょっと楽しみだった。
まぁ、そんな展開になったのは、ベネチアの1000年の歴史を描いた小説のことを僕が思い出したからだ。それは、イタリア在住の作家・塩〇七生さんの「海の都の物語」、サブタイトルは「ヴェネツィア共和国の一千年」という。文庫版は全6冊もある長編だ。これがめちゃくちゃ面白い。
今回はそんな歴史小説にまつわるハナシを書こうと思う。ちなみに本作ではベネチアではなくヴェネツィアとなっている。
おととし(2023年)の春から夏にかけてのことだ。僕は彼女の作品にハマって読み続けていた。ローマ亡き後の中世ヨーロッパ世界、その史実をベースにした長編小説3編(14冊)を立て続けに読み切った。
そしてここ(公式サイト)に、そんな小説のハナシをいつものように書き始めた。まず「十字軍物語」のハナシを皮切りに、東西が激しく対立した時代の話(それらの歴史小説)を順に紹介するつもりだった。
ところがそんな矢先、あの中東の紛争が始まってしまい、その悲惨さを伝える報道が過熱したこともあって、少しイヤになった僕は、書くこと(紹介すること)を止めてしまった。
中東は、長い歴史のプロセスで統治国家が興亡を繰り返したから、地域内での宗教的・政治的な対立もいまだに根強い。さらに西欧大国による利害誘導もあって、とても複雑な歴史を歩んでいるのだと思う。
とはいえ、史実を正しく知ることはやっぱり大事だなぁ、などと思い始めて、再び書いてみることにした。2年ぶりだから、内容の記憶はちょっと薄らいでいるのだが、書きながら思い出している感じだ笑。
ヴェネツィアは、5世紀頃にフン族などの侵略にさらされ、海岸のヴェネタ潟(大規模な湿地帯)に逃げ込んで、難を逃れたことが起源らしい。
その後の歴史では、外交と武力によってアドリア海を制し、中東(当時はトルコ帝国)との交易によって栄えた海洋国家、つまり世界へ向けての「海の都」だったらしい。それがタイトルの所以だと思う。
ご存知のように、現在のヴェネツィアは「水の都」と呼ばれる観光地だ。単語はよく似ているが都のスケールが小さくなったかな笑。世界に与える影響は少なくなってしまったが、有名な運河や、橋とゴンドラ、独特の建物や美術品が観光用に保存されているのだと思う。
中世では珍しく「リアリスト集団」であったヴェネツィアの人々は、自国の領土拡大に関心はなく、アドリア海沿岸に何か所かの寄港地を取得して、それらをつなぐ高速の海上ネットワークを確立していたらしい。戦争ではなく通商で国づくりをしたようだ。あの十字軍遠征すら、自国の利益確保のため、したたかに利用した。
さらに、イタリアの地中海側のライバル、ジェノバ、ピサ、アマルフィーなどの海洋都市国家との攻防に勝ち抜いて、今度は地中海の制海権も奪取する。そんな強力な軍事国家でもあったらしい。
大航海時代に入ったその後は、地中海の女王と称えられたヴェネツィアにも勝者必衰の時代がやってくるのだが、ようするに、本作が描く1000年の史実は、いや登場する人々の活躍バナシは痛快で、とても面白いのだ。
さて、弟夫婦のイタリア旅のハナシだ。わが家のテレビにスマホをつないで、無数の動画や画像を見せてくれた。もちろん彼らの解説付きだ。いわゆる還暦祝いの旅(定年の旅)に選んだ贅沢なパックツアーだから、有名な観光地の、これまた有名な建築物や芸術品がずら~っと並んでいて、とても見ごたえがあった。ありがと。
買ってきてくれたのは、ポルチーニ茸(ドライ)とバルサミコ(しかもクリーム状に加工された珍しいやつ)だった。彼らは僕が料理好きと思っているらしい笑。まぁ間違いではないが、当たりでもない。乾燥ポルチーニかぁ、どう使おうかな。
ローマ市内の高級スーパーを教えてもらって、そこで調達したらしい。その店名は「イータリー」つまり日本にも何軒かある、あのイータリーのことだった。どうやらその買い物の楽しさは、本場も日本も同じなのかもしれない。
そういえばヴァチカンはコンクラーベの最中だった。ちなみに、あの「煙突」はコンクラーベのときだけ設置される臨時のものなのだそうだ。そんな珍しい煙突の写真もあった。まぁ煙は出てないんだけどね。