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2024年11月29日

イライラさせるスズキタゴサク

金沢駅のキップ売り場は、いつも長蛇の列だ。そんなことはもう当たり前になったから、逆算して早めに向かうことにしている。それでも列はなかなか進まない。「オイオイこれは乗れないかもしれね~ぞ」列の途中で時計を見ながらイライラするのは身体に悪い。
ところがある日、なぜか人も少なくてすんなり買えてしまった。もしかすると1本前の新幹線に乗れるかもしれない、そう思って急ぎ足でホームに向かった。表示板を見たらなんと発車まで2分くらいしかない笑。老人が全力疾走するのも身体によくない笑。
早く着いた僕は、駅近くの喫茶店を探した。新幹線で読み始めたこの小説が面白くなって、続きを読みたくなったからだ。本のタイトルはシンプルだが、話はややこしい。

本の帯には「読んでくれ、止まらないから」と短い広告メッセージが入っている。たしかに序盤からそんな感じの展開だった。
再びページをめくって、しばらく没頭した頃、なかなか出てこない珈琲がようやく運ばれてきた。手にしたカップは熱くないのだが、中の珈琲は熱々で、なんと唇を火傷してしまった。ここの珈琲は、なぜこんなに熱いんだ、などと妙にイライラするのは、きっと本のせいだ笑。
軽微な事件で取調室に捕らわれたこの男の名前は、自称スズキタゴサク。たぶん偽名だろうが、人を食ったような名前だった。自虐的な発言を繰り返す貧相な風体のこの男が、突如、10時に爆発がある、と「予言」を始める。そして本当に爆発事件が起こる。さらに、爆発は三度続くと再び予言する・・・。冒頭はそんなスタートだ。
その後は爆破事件の重要参考人のこの男と、警視庁知能犯係の取調官との「イライラする」取り調べ風景が続く。とにかく取調官をイライラさせる男なのだ。だから読者の僕までイライラする、つまりこのタゴサクに周囲が翻弄されるのだ。
ストーリーは取調室でのヒリヒリする会話劇が中軸にあって、爆発現場や予測地点を担当する捜査官たちの奮闘や葛藤が描かれる、つまり群像劇でもある。まぁ読み応え十分な「怪物」の物語だ。

物語は、終盤にかけて急展開していき、数々の謎も解明されてエンディングを迎えるのだが、最後の一文にちょっと嫌な気分にさせられる。物語がまだ終わってないのか?、読者はそんなことを考える。
読み終えた数日後のこと、実は近々この本の続編?が出版されるニュースを知った。あぁ店頭に並んでいたのはそのためかぁ、と分かって、その新刊の情報を探してみたりした。
どうやら、あのスズキタゴサクが再び出てくるらしい。しかもその法廷が舞台になるようだ。そして今度は別の怪物が出てきて、再び警察を翻弄する、まぁそんな感じの予告広告だった。
そうだな「怪物」ってやつは、触れた人の心の中で膨らんでいくのが特徴で、そういう意味ではとても不気味だ。避けて通りたいが、前作が面白かったと思う僕のような読者は、この新刊も読みたくなってしまうのだろうと思う。きっとまたイライラするんだろうなぁ。

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