AB型のシンパシー
血液型の本が流行ったときがあった。そんな影響を受けた世代だ。僕の血液型がAB型だとわかると、ああ、二重人格なんだね、などと分かったように性格分析の話が進む。せっかく分析してくれてるんだから、話のコシを折ってはいけないな、などと気を使って「まぁたしかに、そんなところもあるなぁ」などと納得した返しをすると、「やっぱりそうでしょう」と、相手は、どんどん一方的に説明を始める。
「日本人のAB型は9%しかいないんだよね」などと、特殊性を説明されても、嬉しいわけではないし、何よりAB型の人間がみんな同じような性格だったら、とても怖いことになる(笑)。そう思いながらも流行に乗るように、僕も血液型の本を買って読んでいたっけ。いまでは血液型の性格分析に科学的な根拠がないことは誰でも知っているのだが、自分が興味を持っている人物が同じ血液型だと、妙に近親感を持ってしまって、さらに好きになる傾向は、たしかにあるかもしれない。
僕にとっての「井〇陽水」は、そんな典型的なパターンだ。当時のAB型の有名人リストのトップは陽水だったのだ。なるほど、と納得した僕は、あらためて彼に強いシンパシーを感じていた(笑)。
少し前のことだが、本屋の雑誌コーナーで、平積みされた一冊の月刊誌に目が止まった。その雑誌の表紙を飾るのは、サングラスをかけ笑う陽水のイラストだった。そしてイラストの横の「井〇陽水が聴きたくて」というキャッチが妙に気に入って、衝動買いしてしまった。どうやら、今月は、一冊まるごと井〇陽水のようだ。僕にとっては完全保存版になるかもしれない(笑)。本人のインタビューから始まって、彼のアルバムを題材にしながら、デビューから現在までの楽曲の変遷が語られている。面白い。
アルバムのジャケット写真が年代順?に並んでいるのだが、途中から知らないアルバムが増えていく。知らないのは彼のせいではない。僕のほうが、彼から、いや音楽からどんどん遠ざかっただけだ。そんなことを自覚することになった。タモ〇やリリー〇ランキーなど、身近の友人たちが語る横顔の記事や、様々な世代の有名人が選ぶベスト曲などコメントも面白かった。中でも一番興味深かったのは、作詞家いし〇たり淳治氏による「歌詞で選んだベスト10」というやつだ。この人の解説はずば抜けて面白い。「傘がない」「最後のニュース」などの10曲の歌詞をそれぞれ分析していて、視点も切り方にも共感してしまった。
まだニキビ面の当時の僕には、無力感とか孤独感、ある種の絶望感みたいなものがあって、少しニヒルに人との距離を置いて、遠くから俯瞰するように、世相や自分個人を客観視していたと思う。AB型らしいと言ってしまえばそれまでなのだが、陽水が代弁しているように感じていたのだと思う。考えてみれば、僕にとっては暗黒の時代だ。まぁ実際にも、ネクラでシャイな性格だったな(笑)。暗いという点では、いわゆる四畳半フォークも好きだったなぁ。
雑誌を読み終えて、陽水の古いCDアルバムを引っ張り出して、聴いてみたくなった。GOLDEN BESTだ。紙のスリーブ部分が、色が抜けて黄色く変色してしまっていることに気づいた。いつ買ったのかは覚えていないが、調べたら1999年のリリースらしい。入れ物は古いはずだが、楽曲は、いまも色あせていない。2枚組のCDの最初の曲は「少年時代」だった。僕たちとは8歳違いの陽水だが、観ていた景色は同じなのかもしれない。明快な表現はないのだが、懐かしい原風景を感じるから不思議だ。
ちなみに、本棚の隅っこから、血液型の本も引っ張り出してみた。この本は「AB型の解説書」というタイトルで、いろいろなシーンに関する短いコメントが並んでいる。コメントの中から、自分で「当たってる」と思うやつにチェックを入れていくスタイルだ。パラパラめくっていくと、いくつかは太字で書いてあるので、流し読みをしてみた。これが、なぜか「当たり」ばかりだ(笑)。僕は、やっぱり典型的なAB型なのかな。唯一の陽水との共通点を思い出して嬉しくなっていた。