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2019年08月16日

舌の記憶「究極のローストビーフ」

Lウリーズを訪れたのは初めてのロサンゼルスの時だった。ビバリーヒルズにあるこのレストランは、カリフォルニアを代表するプライム・リブ(ローストビーフ)の名店で、古き良き時代のアメリカ・スタイルで、アンガスビーフを満喫できるレストランだ。
シルバーカートと呼ばれる銀色の専用ワゴンがテーブル脇にやってくる。ワゴンと言っても屋台ほどの大きさで、扉を開けると、アツアツのローストビーフの巨大な固まりが、ライトに照らされてそびえ立っている。客が選択するのは味ではなく「カットサイズ」。おすすめはLウリーカットと呼ばれる350gほどの分厚いカットだ。目の前でカットされ、大きな皿に乗ったローストビーフは、アツアツで、頬張ると溶けていくイメージだ。付け合わせのマッシュポテトやスピナッチは、そのままソース代わりに肉と一緒に口に入れると、また別の味わいで、とても秀逸だ。
最近のテレビや雑誌に出てくるローストビーフは、当たり前だが、薄切りの冷たいスライスで、それを何枚も重ねたり、巻いたりして贅沢感を演出している。それはそれでいいのだが、Lウリーズのそれは、分厚い肉の塊だ。大きく切って、口を大きく開けて食らいつく。

もう何年も前になるが、赤坂にLウリーズができたと聞き、30年以上前のあの味が懐かしく思い出されて、予約することにした。予定時間より早めに着いた僕たちを迎えたスタッフは、ロサンゼルスと同じように、ウエイティングバーをすすめた。カクテルはどれも目を見張るほど高額で、見事に「やられた」感じでディナーが始まった。
若い美人のウエイトレスが、まるでダンスを踊るように作る「スピニング・ボウル・サラダ」は、観ているだけで楽しい。氷の上に乗った大きなステンレスのサラダボールに、レタスを入れ、ボールを氷の上でくるくる回し、さらにレタスを空中に投げ上げるように、ドレッシングする。接客スタイルも独特のミニスカートのユニホームもアメリカと同じなのだが、日本人には、どうしても似合わない(笑)。そう言えば、ビバリーヒルズのウエイトレスは、みんな相当のお歳の「おばあちゃん」ばかりだったなあ、でもそれが家庭的な雰囲気で楽しかったんだと、思い出していた。
赤坂のこの店は、まるで王宮のような内装で、とにかく広い。売価も(イメージでは)アメリカの約2倍、完全なハイグレードの高級レストランの雰囲気で、利用客を圧倒する。肝心のロースト・プライム・リブは、この年齢の僕でもペロリと完食できる出来栄えだ。やはり美味しい。長い時間が過ぎても「記憶に残る味」を維持する努力に敬意を払いたくなる名店だ。でも、ウエイティングバーの値段は、もっと安い方がいいよ、支配人。
ちなみに、この原稿を書くために調べてみたら、僕が訪れた赤坂のこの店はビルの建て替えクローズし、その後、再び赤坂に新しく再オープンしたらしい。いまでは恵比寿や梅田にもあるようだ。

Lウリーズ lawrys.jp/akasaka

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