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2019年08月09日

本の時間「新宿が舞台になった小説」

その昔、大事な取引先の東京本社が新宿にあった。新宿と言っても花園神社の裏にあって、すぐそばに新宿ゴールデン街がある。歌舞伎町からの連続線のようなこのエリアは、とても本社機能を置く場所とは思えない環境だった(笑)。北海道に本社を持つこの会社が、東京に所在地を移す際に、この場所を選んだのだという。どうやら創業社長にとって新宿ゴールデン街は、なぜか青春時代の聖地で、東京本社の場所は、ここしかない、と決定したらしい。僕はいつも新宿東口から、ここへ通った。昼間のうちは靖国通りから新宿区役所横の遊歩道?を歩くルートだった。意外なことに緑豊かで、静かな小径だ。

昼はのどかな歌舞伎町も、夜はネオン輝く怪しい街に変身する。先方指定のホテルは、これまた歌舞伎町の繁華街のど真ん中にあるので、夜になると、強引な客引きに悩まされるし、深夜はパトカーのサイレンが、いつも聞こえていた(笑)。しかし、連れていかれるゴールデン街のバーも、歌舞伎町の寿司屋や古びた中華も面白い。そして何より、集まる人たちの活気や猥雑感も、慣れてくると心地よくなる。僕にとっての歌舞伎町界隈は、そんな街だった。

だから新宿や歌舞伎町を舞台とした小説には、近親感を感じてしまう。おおむね小説に登場する歌舞伎町は、アンダーグラウンドで多国籍な世界観で、チャイニーズマフィアと日本のやくざが、しのぎを削り、覚せい剤と銃弾が飛び交うような無茶な設定が大半だ(笑)。大沢在昌の新宿鮫シリーズや、誉田哲也のジウから始まるシリーズは、ともにタフな刑事が主人公で、超ド級の敵や、個性的な脇役が生き生き描かれる大活劇だ。この二人の作家が描く歌舞伎町は、映像的で、街の匂いや体温が感じられる傑作だと思う。

考えてみれば、このところ伊勢丹などの「昼の新宿」にしか縁はない。たしかに伊勢丹は歩くだけで楽しい。最近では南口のバスターミナルに隣接したNEWoMan(ニュウマン)などの鋭角なコンセプトの施設も生まれているのだが、かっこよすぎて新宿らしくないと、オジサンは思ってしまう(笑)。いつか、みんなで夜の歌舞伎町を飲み歩きたいものだ。なんなら、怖いもの見たさに、新宿2丁目でドラッグクイーンに会うのも悪くない(笑)。

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