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2024年11月14日

かもめ食堂のイングリッシュマフィン

3階のシネコンから出てきて、下りのエスカレーターに乗る。ところで映画どうだった?、老夫婦2人にとっては、1階に着くまでの短い時間が、観てきた映画の感想を交換するタイミングだ。今日のやつは互いに「う~ん」ってことだった。
感想はこれで終了なのだが、家内はなぜか「ブルスケッタが食べたくなった」らしい。映画のワンシーンに出てきたイタリア前菜なのだが、どんな場面だったか急には浮かばない・・・あぁ、あれね、思い出したよ。
僕の場合は「柿の種」かな。大富豪?が大きなガラス瓶(昔の駄菓子屋さんにあったようなガラス容器)に入った柿の種をポリポリ食べるシーンだ。とはいえ、会話がちょっとかみ合わない。家内は劇中の食べ物の会話をしたいのではないらしい・・・。

映画のブルスケッタは、レストランのものではなく、主人公の彼女が「作ってみたのよ」とさりげなく自慢する手作りのやつだった。要するに家内が言いたいことは、どうやら今夜それを食べたい、ワインを飲みたい、そんなことを思い付いたらしい。
今夜の料理当番は僕だから、これは遠回しのリクエストってことだ。ややこしい展開になってしまった。仕方ない、ブルスケッタを作ろう。映画は変なことで僕を困らせる。
材料としては、あれとかこれとか、と考えて浮かんだのは、館内のカルディだった。まぁ宝探しみたいな店で最近のお気に入りだ。でもサイズが合うやつがなく、ワインと生ハムだけを買った。それにしても安くていつも驚かされる。まぁ味や品質はギャンブル気分だけど。
さて、僕のブルスケッタだ。要するにポイントはガーリックオイルだ。さっそくニンニクを刻んで低温で火を入れる。具材は何でもいいのだが、トマト、ブラックオリーブ、玉ねぎでサルサみたいなやつを作る。安かった生ハムは、これでもちゃんとしたハモンセラーノらしいから、そのまま乗せよう。
仕上がったそれは、あいかわらず不格好で、まるでオープンサンドみたいだが、味はいい出来だった(自己満足かな)。ニンニクは強いのだが明日は休日だから、少しくらい臭いのは何とかなるかな。
ちなみに店にアレコレ並ぶワインの中から見つけたのは、モンテプルチアーノ・ダブルッツォ(赤)だった。懐かしいイタリアワインだから買ったのだが、やっぱり白の方がよかったかな。最後は「柿の種」も引っ張り出して、ガンガン飲んでしまった。

いきなりで申し訳ないが、ハナシは20年ほど前の古い映画へと飛ぶ。
当時の僕は飲食店プロデュースのシゴトが多かった。色々手掛けたのだが、ある時期から「居心地のいいカフェ」の依頼が一気に増えていった。なぜか依頼者に共通していたのは「かもめ食堂」という映画のハナシだった。
それは某作家さんの原作小説の映画版だ(全編フィンランドロケだったはず)。主人公の女性がフィンランド(ヘルシンキ)へ渡り、そこでカフェ(本編では食堂という)を開業し奮闘するストーリーだ。僕は原作も読んだのだが、この映画の反響は大きくて、確かロングヒットしたはずだ。
どこか訳ありの女性たち(男性もいたかな)がそこに集い、ゆったり優しい時間が流れる物語って感じだ。その店の名前が「かもめ食堂」だ。主演は小〇聡美さんで、個性派の二人が脇を固めていた。出てくる料理に人生があって、どれも優しかった。僕のシゴトの依頼者たちが強く惹かれたのは納得だった。
当時の流行キーワードにはスローライフってやつがあって、日本人は北欧フィンランドにそれを感じていたのかな。この映画は、あの北欧ブームのきっかけになった気もする。ただしサウナブームで再注目されるのはずっと後のことだ。
この小さな作品が、当時の日本のカフェ文化にどんな影響を与えたのか、ひと言では表現できないが、映画のチカラは実にすごいのだ。

その何年か後に、この「かもめ食堂」のシーンを再現したテレビCMが流れた。某・食パンメーカーのCMだから、映画を見ていない人も知っていると思う。同じキッチン、同じ演者、同じ監督がフィンランドで作ったCMなのだそうだ。だから映画の続編のように人を惹きつけた。
演者の小〇聡美さんには独特の雰囲気があったし、何より調理されるメニューがとても美味しそうだった。今のレシピ動画のさきがけみたいな気もする。
僕はイングリッシュマフィンが大好きだ。CMに出てくるそれは、楽しさや笑顔まで詰め込まれていて、CMの世界が、居心地がいいカフェ空間そのものだと思った。僕は今でも、旅の朝食みたいなとき、メニューにイングリッシュマフィンがあると必ず食べたくなる。朝マックのファンなのは同じ理由だし、最近のやつではスタバのそれが旨いと思う。

さて、ハナシは今日観た映画のことに戻る。それは〇谷幸喜作品のコメディーで、なぜかフィンランド(ヘルシンキ)を強くリスペクトするシーンが唐突に出てくる。僕がフィンランドを、そしてかもめ食堂を思い出したのは、そんな経緯だ。
ちなみに、かもめ食堂の彼女は、たしか彼の元嫁だったと思う。フィンランドには、なにかオマージュがあるのかな。まぁ夫婦のことは分からないから触れるのはやめておこう。

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