ただ食べたくて「うどん談義」
僕の頭には「つむじ(渦巻き)」が三つある。普通はひとつだから人さまの3倍の数だ。ひとつは「頭頂部」、これは誰も同じ。二つ目は「額の生え際」、ここにあると髪を左右に分けるとき、とても邪魔になる。そして三つ目が「うなじの上の部分」、ここに渦巻きがあることで、いつも後頭部に「寝ぐせ」がついてしまう。まだ青春を謳歌していた若い頃、髪型は結構大事な要素で、長めの髪がどの位置で左右に分かれるかは、とても大事なことだった(笑)。だから僕の「髪のくせ」イコール「渦巻きの位置」を理解して、意のままに操ってくれる理髪店が重要だった。その理髪店Sは香林坊にあって、長く通った。当時は僕の「髪のカルテ」が存在していた。その後、そこのダンディーなマスターが亡くなり、今は弟子の某氏の店に通っている。マスターの技術と僕の髪のくせを熟知しているからだ。香林坊の頃からだから、かれこれ30年以上の付き合いだ。
9月のある日、そんな弟子の彼に髪を切ってもらいながら話すうち、なぜか「うどん」の話になった。彼は決してグルメではないのだが、なぜか「うどん」の話には熱がこもっていた。彼が好きなのは当時、香林坊にあった「百万石うどん」という店で、今でもそこの「だし」がドンピシャなのだという。また「うどんは唇で切れるほど柔らかいこと」がベストだと言う。そんな発言に、讃岐好きの僕が逆襲したのは間違いないが、その後、妙に、あの金沢独特の「甘くて香り良いだし」のことが気になってしょうがない。当時は僕も百万石うどんのファンだったからだろう。そして週末のお昼、どうしても「うどん」が食べたくなって、八日市出町の「野路」へ行くことにした。野路は蕎麦が旨いのだが、だしがいいので、うどんも旨い。何より専門店のような気取ったところはなく、大衆的で大好きな雰囲気だ。
車での道中で、すでに注文するメニューは決めていた(笑)。「あい盛り天ざる」だ。うどんも蕎麦も両方付いていて、何より揚げたての天ぷらがドーンと出てくるガッツリ系の商品だ。これに「姫かつ重」という、小ぶりのかつ丼を追加する。蕎麦好きで、うどんも食べたくて、いっそのこと、かつ丼が付いていれば肥満天国のような3品定食になる。渦巻き3個の僕にぴったりだ。すべて平らげ、もう何も食べれないくらい満腹になった。また来月、髪を切りに行ったとき、野路の自慢をしてやろうと、ほくそ笑んだ。うん?、でも野路は蕎麦屋だな。