懐かしのメロンボール
桜が咲き始めた頃、加賀産業道路を走っていて、急に思い立ち、辰口丘陵公園へ寄ってみることにした。およそ30年ぶりのことだった。坂道の途中の駐車場に車を止め、遠くの景色を眺めながら、若いパパだった頃の記憶を探り始めた。
建物は古びていて輝きはない。丘の上の長い滑り台は、なんとなく覚えている。きれいだったはずの芝生は、色あせて雑草だらけになっていた。走る子供たちの後ろ姿を見ながら、小さかった娘たちのことを思い出していた。あの池のボートには乗ったのだろうか、この三人乗りの自転車には乗った記憶があるなぁ。そんな切れ切れの記憶をつないでみていた。アトラクションの施設は、どれも老朽化していて、触るとキーキーと音を立てる。公園だって年齢を重ねて年老いていくんだ。なんとなく、愛おしいように感じてしまう。
昔のことを思い出したからだろう。帰りに、小松の洋菓子店「Mルフジ」へ寄って、ケーキを買おうと思った。代名詞のメロンボールは、半切りのメロンをくり抜いて、中にメロンや様々なフルーツを詰め込み、たくさんの生クリームでドレスした大胆で素朴な商品だ。発売から30年だという、当時は贅沢の象徴のようなケーキだったに違いない。小松エリアの人なら誰もが知っているはずだ。産業道路から小松空港への一本道を、ずーっと進むと、沖町の田んぼの中にポツンと、Mルフジが立っている。けっこう大きな建物なのだが、おとぎ話の絵本の中に出てくるケーキ屋さん、そのままの佇まいは、今も変わらない。
店の周囲にはたくさんの駐車場があって、今日も満車で、ひっきりなしに車が出入りしている。正面の駐車場に止め、緑の木々のトンネル(のような)小径を抜けて、玄関に向かう。大きなお菓子の家なのに、店内の売り場は小さい。そんな店内にたくさんの利用客がいる。いつものように利用客は整然と並び、暗黙の了解のように、右から左へと順に進む。焼き菓子売場の前を過ぎ、長いショーケースの前であれこれケーキを選んでいく。大きなホールケーキは品薄のようだが、今日もたくさんの、かわいいケーキが並んでいる。誰もがニコニコと笑顔で選んでいる。注文が終わると、列から離れて、レジの前で箱詰めを待ち、会計する。そんな繁盛店のリズムが心地いい。
実は失敗した。メロンボールは5月からの季節商品だった(悲)。でも他のケーキを買おう。Mルフジのケーキは、今日もノスタルジックで美味しい。