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2019年10月04日

紅の豚が瀬戸内を飛んだ

外のテラスのソファー席に座って、コーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。遠くでブーンというエンジン音が聞こえる。気になったので海が見下ろせるところまでデッキを進んだ。エンジンの主は、赤いプロペラ飛行機で、左から右へと低空飛行を始めていた。赤い飛行機は、右の島の上空あたりでUターンし、高度をさらに下げて、今度は右から左に降りてきた。車輪の替わりに薄いボードを履いた水上飛行機だ。どうやら着水するらしい。
水面すれすれに飛行していた飛行機のボードの下に、白い糸が出たように見えた。すぐに、それは着水したときの、小さな水しぶきだと分かった。港のマリーナのヨットと同じように、赤い飛行機はゆっくり自走して、マリーナの右手に着岸した。あっけに取られて眺めていた。まるで紅の豚のポルコロッソ、その愛機サボイヤに見えたからだ。

飛行機の正体は、このホテルと同じ系列の会社が所有する遊覧飛行用の水上飛行機だった。ホテルのスタッフによれば、定期遊覧飛行やチャーターフライトをやっている会社らしい。僕が見た赤い飛行機にはちゃんと名前があった「ラーラ・ロッソ」。数機ある飛行機のなかの1機で、特別に塗装されたらしい。この特別塗装のデザインはスタジオジブリの宮崎駿監督の監修らしいから、やはりホンモノだった。一度は乗ってみたいよな、そう思ったのだが、定期遊覧飛行に申し込んでも、この赤い飛行機に乗れるかどうかは、確約できないんだそうだ。唯一の特別機の人気は凄いらしい。
その会社のアドレス setouchi-seaplanes.com

おまけの話がもうひとつある。「ガンツウ」のことだ。最終日に駅へ向かう途中、マリーナに変わった形の客船が停泊していた。「あれは、ガンツウだよね」と声をかけると、ドライバーのホテルスタッフが、ていねいに説明してくれた。この船も同系列の事業だからだ。ガンツウは「海に浮かぶ宿」だ。就航し始めた頃、業界では騒がれていたので、雑誌などで目にすることがあったが、実物を見るのは初めてだった。
さまざまな事業を通じて瀬戸内を盛り上げる。そんな、この企業グループの〇〇周年事業として特別に建造された船なのだそうだ。贅を尽くした内装の話や基本的な就航ルート、変わった名前の由来など、知らない世界の話は興味深かった。豪華な大型クルーズ船とは違って、客室数も少なく(19室らしい)、プライベートな独自の旅を提案しているのだという。目的地の港ではなく、あえて、その沖に描泊(いかりを下ろす)して、瀬戸内の海の景色を堪能しながら、食事やプライベートな時間を楽しむのだそうだ。夕陽に映える島々のシルエットや、瀬戸内の幸を堪能する食事、そして客室の露天風呂などの説明に心惹かれた。
少し前のことだが、ある缶コーヒーのCMが流れていた。客船のクルー役の山田孝之が、客の中尾彬・池波志乃夫妻をもてなし、お礼にネジネジを首にかけてもらう、という構成だった。この時の舞台として紹介された豪華な客船が、この「ガンツウ」だ。

ガンツウ guntu.jp/
初めての瀬戸内の旅で、心の中に小さなロマンの火が付いた。僕にとっては不思議がいっぱいで、刺激的な場所だった。また訪ねよう、心からそう思った。

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