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2019年12月21日

舌の記憶「ハンバーガーの1週間」

アメリカの某大統領が来日して、またハンバーガーの話が出ていた。晩餐会でも、魚料理ではなく肉料理を希望した、などと報道されていた。まるで彼の味覚センスが幼稚で、ハンバーガーのような子供じみたメニューが好き、と伝えているフシがある。
ハンバーガーはサンドイッチの1種だが、アメリカ人の国民食だ。だからアメリカには定義がある(農務省令だったかな?)。ビーフ100%のパティ(丸く平べったいミンチ肉)を使うことだ。だから牛肉以外のチキンとかターキーを使ったものは、バーガーではなく〇〇サンドイッチと呼ばれる。だから、この某大統領のハンバーガー報道には違和感を感じている。日本のマスコミでは、彼の好みと伝えているが、おそらく自国民へ向けた、彼独特のしたたかなパフォーマンスだと思うことがある。それほど、アメリカ人はハンバーガーを愛している。アメリカンビーフも同様だ。

ずいぶん若い頃の話だが、1週間ほどハンバーガーを食べ続けたことがある。どこかのテレビ局の健康問題のためのモニター生活ではない。カリフォルニアへのハンバーガー研究の旅だった。マクドナルドやバーガーキングなど日本で有名なものはもちろん、日本では知られていない大手チェーンのそれや、西海岸で愛されているローカルなハンバーガーまで、とにかく一日中、死ぬほど食べ続けるような1週間だった(笑)。
会社の経費で海外視察のセミナーに参加した際に、選んだ個人テーマだったから、シゴトとして食べていた訳で、単なる食べ物としてではなく、実際は、経営システムを比較研究するような、まじめな研究テーマだった。朝昼晩の三食どころの話ではない。一日中移動しながら、ずーっと何食も食べ続け、夜中に必死にレポートを作るという、修行のような旅だ。ご褒美にもらった最終日のラスベガスの夜も、まじめな僕はハンバーガーを食べていた(笑)。

ファドラッカーズという、ローカルなハンバーガーショップ(正しくはステーキ・サンドイッチの店)があった。ローカルとは言っても当時100店以上あったから、急成長企業だったと思う。テキサス出身のハンバーガーだ(テキサスは何でもデカい)。倉庫を思わせるような外観で、入り口を入るとブッチャー・ルームという、ひと部屋まるごと冷蔵庫の、ガラス張りの加工部屋があった。そこに牛肉の枝肉がたくさん、ぶら下がっていた。ロッキーのスタローンが、同じような室内でパンチの練習をしていたシーンがある、まさにあんな感じだ。
その横に、大きなショーケースがあり、ブッチャールームでカットされた分厚いステーキが、部位ごとに、大量に陳列されている。利用客は、その中から肉を選んで、焼き方をオーダーする。ミンチしたパティもあるのだが、どちらかと言えばサイコロのような、あらびきだったり、スライスだったりする。選んだ肉は、ショーケースの横の、巨大な直火のコンロで焼かれる。炭火の網焼きだ。たくさんの分厚い肉が、網の上で豪快に焼かれる光景は、実に美味しそうで圧巻だった。
しばらくすると、番号をコールされ、カウンターで焼きたての肉とバンズ(あの丸いパン)を受け取る。サラダバーで野菜を好きに選び、ソースなどを付ければ、皿の中に巨大なハンバーガーが出来上がる(笑)。あとは豪快に食べるだけだ。

喧嘩なら、農耕民族は狩猟民族に絶対勝てないなぁ、などと思っていたと思う(笑)。後年、たくさんのアメリカ発のハンバーガーチェーンが日本に上陸し、撤退していった。そんな中、このファドラッカーズは、ついにやってこなかった。まあ、あんな商品を作ったら、ものすごく高い売価になったことだろう、当時の日本では無理だろうな。しかし近年の「いきなりステーキ」を見ていると、もしかしたらと思うことがある。僕の胃袋はもう小さくなったが、ハンバーガーは別腹だ。でも食べれて、1週間に1個だろうな。

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