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2020年05月29日

舌の記憶「ストーンクラブのハンマー」

ある日の某バラエティー番組で、人形のジーンちゃんがフロリダを歩き、名物のシーフード料理「ストーンクラブ」を紹介していた。店名はジョーズ(Joe’s)といい、ソースを付けた独特の「蟹ツメ」を楽しむシーンを放映していた。ストーンクラブはフロリダ南部に生息する大きな蟹で、左右のツメの大きさが極端に違うのが特徴だ。そのツメが本当に旨い。漁ができる期間が何か月かあって、その期間しか食べられない。獲ったストーンクラブから、大きなツメを外し、再び海に返す。ツメはまた再び生えてくるので、資源が枯渇することはない。そんな話をしていた。なにげなく番組を観ていた僕は、その話を、そっくりそのまま聞いていたことを思い出していた。ずいぶん昔のことだ。

もちろんフロリダには行ったことはない。その話を聞いたのは、まだ30歳くらいの頃で、赤坂のビルの地階にあったレストラン「東京ジョーズ」だった。店名はジョーさんの店という意味なので、巨大ザメのことではない。場所は、ニュージャパン火災事故の跡地の、すぐ横あたりだったと思う。階段を降りると、ショーンコネリーによく似たタキシードの外人男性が出迎え、少しも笑わず、しかしスマートにテーブルに案内してくれた(笑)。広い店内に白いテーブルクロスがずらっと並ぶ、クラシックな雰囲気だった思う。

出てきたストーンクラブは、皿の上に何本かの殻付きの「ツメ」が乗っていて、表面には軽くひびが入っている。一緒に出てくるのは、蟹フォークのほか、木製のハンマーだ。このハンマーで、蟹の殻をたたき割る、それを外すと、中から白くて大きい蟹ツメの塊りが顔を出す。添えられるソースは、溶かしバターとレモン、そしてジーンちゃんが紹介していた、辛子マヨネーズのようなオリジナルソースだ。こいつをたっぷり塗って食べる。うん甘くて旨くて、食べごたえがある。イメージよりはるかに上品な味だった。はるか昔のことなのに、その味が口の中によみがえってくる(笑)。

思い出したのは、そんなシーンだった。その何年か後に、大阪のキタにも出店していて、使った記憶がある。その後、東京も大阪も、ジョーズは閉店してしまったようだ。僕は、ずわいの国の生まれなので、蟹料理には目がない。だから○○蟹という表示を見ると、強い興味を抱いてしまう。食べて失敗することもたくさんあるのだが、それは蟹さんのせいではなく、お店のせいだと考えることにしている(笑)。ハンマーでたたき割る、あのストーンクラブは、もう食べられないのだろうか、どこかにあったら食べに行きたいものだ。

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