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2020年07月17日

御頭(おかしら)と呼んでほしい

最近は、素直に「時代劇ドラマは面白い」と言えるようになった(笑)。そんな年齢になったのだ。その昔の「この御紋が目に入らぬかあ」とか、何とか捕り物帖のシリーズのように、終盤の無理なキメ台詞があるやつは、何となくウソっぽくて苦手だった。そんな、勧善懲悪で品行方正な「家族の食卓」のようなドラマに興味はなかったが、人気作家が描いた世界を再現するような本格時代劇は、人間の本質が描かれているように思えて、面白くなっていったのだろう。
一平二太郎というコトバがあるそうだ。藤沢周平、司馬遼太郎、池波正太郎の3人のことで、「大人の日本男子」がたしなむべき作家、ということらしい。彼らの作品そのものは時代劇と呼ばれることはなく、時代小説とか歴史小説と呼ばれる。だから「時代劇」というのは、あくまでテレビやマンガのことだ。

3人の中から、今回は「池波正太郎」にまつわる話を書こうと思う。テレビドラマとしては、例の仕掛け人シリーズ(必殺シリーズの初期のやつ)や鬼平犯科帳、剣客商売などが有名だろうか。何が面白いのか、と問われても返答に困るのだが、言ってしまえば、とてもテレビ的、マンガ的なのだと思う。少年ジャンプの人気に共通する「ヒットの法則」みたいなツボがあるのかもしれない。
シゴト相手の社長さんの中にも「鬼平犯科帳」のファンが案外たくさんいる。某社長の場合はマンガがキッカケで、その後レンタルビデオに足しげく通ったらしい。鬼平と部下たちの関係性に、自ら率いるチームの姿を重ねていることを、熱っぽく語ってくれた(笑)。まぁたしかに、劇中で、部下たちから御頭(おかしら)と呼ばれ、慕われる鬼平は魅力的で、演ずる中村吉右衛門もかっこいい。この社長は、そもそもはフレンチのシェフで、その後は事業を拡げたのだが、ある時、急に、畑違いの和食の居酒屋をやりはじめた。もしかすると、鬼平犯科帳の世界を本気で実現したかったのかもしれない(笑)。

僕の場合、父親が池波正太郎ファンだったこともあって、わりと身近に感じていたと思う。本棚の小説を読んだこともある。とはいえ原作の小説、というよりマンガやテレビの方が多かったのがホントのところだ。書籍で言えば、彼のエッセイは意外に面白かった。ある本は、男の作法などがテーマだったと思うが、内容は食べ物のことが多くて、食通と呼ばれた独特の視点や描写がとても面白かった。読むと香りや味はもちろん、その時代や暮らしぶりまで伝わってくる(笑)。
食通だから、特殊なトリビュート本もある。彼の小説に出てくる「食べもの」のシーンだけを抜粋して、その料理を深掘りして再現するような企画もので、没後に出版されたと思う。企画を受けた料理人は、あの(天ぷらの名店の)K藤文雄さんだった。K藤さんは、池波正太郎に愛された料理人だ。昭和の文士たちが常宿にする山の上ホテルの若き料理長として、池波正太郎に出会い、食通の彼の誉め言葉が何よりの精進の原動力だったらしい。僕はそんな職人の物語に弱い(笑)。
鬼平が五鉄という小料理屋で手下に指示を出しながら、シャモ鍋をホントに旨そうに食べていたり、梅安がシゴトの後に、あおやぎ(アサリに似た貝?)を小鍋仕立てにして、酒を飲んでいたり・・・、そんなシーンの料理を再現し、解説していたように思う。テレビでおなじみの鬼平シリーズにも剣客商売にも、必ず食のシーンが入っている。食を通じて庶民の暮らしや季節感、江戸情緒が描かれるのだと思う。実は当初、K藤さんが劇中の料理を作り、京都の撮影所に届けていたのだそうだ。

江戸時代の風俗に詳しいわけではないが、現在の「居酒屋」の原型は、当時の一膳めし屋や蕎麦屋だったらしい。当時はイスやテーブルもなければ、看板娘もいなかったようだ(笑)。桟敷(さじき)とか、床几(しょうぎ)と呼ばれる低いベンチみたいなやつに座って、お盆に乗せられた料理を食べていたそうだ。例の「縄のれん」も明治時代のものらしい。最近は時代考証ってやつにうるさいようで、制作側も正確にやろうとするのだろう。そんなことを気にしながら観てみると、単純なシーンのように見えて、けっこうマジに時代を再現している気がする。
僕はいま、某国営放送の雲霧仁左衛門にはまっている(笑)。こちらも盗賊もので、相手方の火付け盗賊改め方との知恵比べが面白い。しかし残念なことに食のシーンは出てこない(笑)。御頭と呼ばれる首領の中井貴一がいい味を出している。なぜか観ている僕も、御頭(おかしら)と呼ばれてみたい気がする(笑)。あの社長さんと同じハマり方かもしれない。いずれ原作を読んでみようと思う。

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