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2020年10月09日

マジックアワーに口ずさむ歌

この日の夕方は、仕事から自宅に戻ってきて、着替えないまま、ワイシャツ姿でパソコンに向かい、残務処理をしていた。そんな自分の処理能力の劣化を自覚しながら、もう、リタイヤする年齢なのかなぁ、などと考えたり、シゴトを辞めたら、自分に何が残るのだろうか、とか、いや新しい「やりがい」を見つけるんだ、などと独り言のように反論したりする(笑)。
ねえ、夕陽がきれいだよ、と話しかけられたのだが、よく聞こえないふりをしてキーボードに向かっていた。そういえば、最近は晴天続きで、夕方の帰路の運転では、陽射しがまぶしくて、しばしばサングラスをかけるほどになっていた。これだけ天気も良ければ、夕陽だってキレイかもしれない。おぅ、と気のない返事を返した。
ねえ、ホントにきれいな夕焼けだよ、観てみ、沈み始めたよ、と今度はやや強めのコメントに切り替わったこともあって、ようやく重い腰を上げることにした(笑)。

玄関のサンダルをひっかけて外に出た。早く早くと、せかされたが、夕焼けは防風林の向こう側にあるから、そのまま100mくらい歩いて、海側の空を眺めることになった。たしかに、きれいな夕焼けだった。半分沈んだ太陽は、水平線に広がる雲を引き連れて、ひときわ赤い光を放っていた。いわゆる「マジックアワー」だ。遠くの道を走る車に夕陽が反射して、田んぼの緑が輝くように見える。ここに暮らして何年にもなるが、こんなにきれいな夕焼けは珍しいかもしれない。
しかし残念なことに、数分遅かったかもしれない。最初に声を掛けられたとき素直に外に出ていれば、この素敵なショータイムを、もう少し長く楽しめたことだろう。

マジックアワーは、こんな夕暮れや、夜明けのような短い時間のことで、その光が優しくて、景色がとても美しく見える不思議な時間のことだ。カメラマンや映像のシゴトをする人たちにとっては常識的な話らしい。
そういえば何年か前に「マジックアワー」というタイトルの映画があった。M谷幸喜・監督によるコメディー作品で、誰にでもある「人生で一番輝く瞬間」をテーマにした作品らしい。主人公のT夫木聡が、マフィアのボス(N田敏行)の愛人(H津絵里)に手を出してしまい、命乞いのために「伝説の殺し屋」を探す。でも殺し屋は見つからず、売れない役者のS藤浩市を伝説の殺し屋に仕立てて、窮地を乗り切ろうとして巻き起こるドタバタ劇、という感じだったと思う。相変わらずのM谷ワールドで楽しい映画だった。殺し屋を演じる役者(S藤浩市)が、凄みを効かせて、ナイフをベロ~んと嘗め回すシーンが、一番好きで覚えている(笑)。

映画の話はこれくらいにして、再び夕焼けのハナシだ。こんなきれいな夕陽を見ていて、ふと思い付いた楽曲は、なぜか「夕陽が鳴いている」だった(笑)。そうだ、あの古い歌だ。夕焼け~、海の夕焼け~、と口ずさみながら、星三つです、のキョショーの顔が浮かんだ。いまなら町医者の東庵先生かな、まぁそんなスパイダースの頃の巨匠が歌っていたはずだ。なぜ、こんな50年も前の曲が浮かんだのかは分からないが、ちゃんと歌えた自分にも驚いていた(笑)。
後から思えば、美しいマジックアワーのこんな時間には、チューリップ時代の財津さんの名曲「夕陽を追いかけて」を思い出すべきだった。クリスマスの約束で小田さんが歌ったことをきっかけに、いい歌だなぁ、と思った曲だ。珍しく数年後に再度エンディングに流れた曲でもある。
好きだとはいえ、僕が、そらで口ずさめるのはラストの部分だけだ。沈む夕日は止められないけど、それでも僕は追いかけていく、追いかけて、追いかけて・・・・。財津さんの歌声だから染み入るのかもしれないが、名曲の歌詞には、やはり不思議なチカラがある。
さて、僕は、死ぬまで何を追いかけるのだろうか。

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