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2020年11月27日

本の時間「警察小説というジャンル」

僕は師走に64歳になる。当たり前だが27期のみんなも64歳だ(笑)。警察小説のことを書こうと思って、この数字とおなじの「64」というタイトルの小説のことを選んでみた。まぁ、こじつけってやつだ。
わずか7日間で幕を閉じた「昭和64年」に起った未解決の誘拐事件があって、それを平成の世になっても「ロクヨン」という符丁で呼び、解決を誓って犯人を追うD県警の物語だ。小説64(ロクヨン)は、そんな時効寸前の事件をめぐる警察官の奮闘、という定石のようなテーマ設定なのだが、キャラクターを深く深く掘っていて、読むにつれ、読者側にもどんどん重圧がかかるような物語だった。読めば読むほど暗い気分になったものだ(笑)。作者のY山秀夫は、僕たちと同じ世代(1957年生れ)だ。64(ロクヨン)以外にも、半落ち、クライマーズハイ、臨場シリーズなど、リアリティーがあって、重い作風だと思う。

警察小説のファンは、世の中にたくさんいるようだ。文庫本の売場へ行くと、警察ものが大量に平積みされている。どれもシリーズの新作のように見える。僕もそんな陳列に魅かれて、K野敏、S々木譲などの本格派のシリーズものは、けっこう読んだと思う。主人公は概ね警察官で、事件の発生から解決までの一種のミステリー小説といえるかもしれない。
僕は「謎解き」にあまり興味がないから、なぜ読むのかと言われても困るのだが、きっと世相とか組織とか、背景や心理といった、つまり人間ドラマへの興味が強いのかもしれない。だから犯罪者側の描写やキャラクターが面白いと、ついつい引き込まれてしまう。警察小説には、読者受けするような家族愛や恋愛も出てくるし、所轄と本庁の対立、SATとSIT、科捜研と科警研、などという知らない世界が出てきて、変化もあって飽きさせない。でもある意味で、人間模様は、宿命や業を描くので、けっこう暗い物語ということもできる。だから読み終えると、ぐたっとする(笑)。

そんな中、少し例外のような作家を見つけた。H義之という人で、そもそも本物の公安畑や警備畑を歩み、警視で退任した後に作家になった異色の経歴の作家だ。ジョブチューン?とかいうバラエティーに本名で出演していて、驚いたことがある(笑)。そんな経歴だからだろう、小説としてのストーリーの妙や、犯人側の複雑な人物描写などは、ほとんどない(失礼)。全編がノンフィクションのように、警察側の視点で、様々なセクションの捜査が「淡々と」進み、最終的には一網打尽の大団円で解決する、そんな作品ばかりだ。
登場人物の葛藤や感情の起伏などには触れず、とにかく客観的でクールに話が進む。ホントの捜査って、こんな感じかなのかなと思ってしまう。ゆえに読んでも疲れない。どの作品にも冒頭部分に、警察機構の組織や階級の解説が付いている。登場人物の「セクション」と「階級・肩書」をみて、どんなセクションのどんな階級の人かを確認しながら、ストーリーを読んでください、というような、業界誌のような小説だ(笑)。
ケーサツってそんな機構なのかとか、階級やキャリアを積むってそんなことかとか、警察機構独特のディテールを丁寧に解説するリアリティーに、僕がハマったので読み続けたのだと思う。ちょうど平成が終わるころ、某カルト教団事件を真正面から描いた三部構成の作品が発表された。当時は公安マンとして、この捜査に従事した作家(彼)が描いたのは、もちろんフィクションと現実が織り交ざったものなのだが、圧倒的なリアリティーがあった。

僕だけかもしれないが、経験上、警察小説を読むと、気分が暗くなる。明るく軽い警察小説はないものか、などと思うこともあるが、犯罪を甘く描くわけにはいかないから、あり得ないだろう。だからかどうか、自分でも分からないのだが、今読んでいるのは、大金持ちのスーパーマンのようなキャリア刑事が主人公のシリーズだ(笑)。荒唐無稽のストーリーは、マンガのようでもある。でも、それはそれで楽しい。その小説の文庫本の帯広告には、あのシティーハンター「冴羽りょう」が起用されていた(笑)。だから手に取ったのだ。たしかに、主人公のキャラクターに重なるところがあるかもしれない。S峯紅也の公安J(ジェイ)というシリーズだ。警察ものがお好きなら、気分転換にお勧めしてみたい(笑)。

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