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2021年02月26日

散歩の途中で「熊の〇〇〇は臭くない?」

案内看板を探しながら、ゆるくて長い坂道を登っていった。ユニークな「むささび横断注意」の標識に目が行った(笑)。周囲の林はすでに落葉していて、すき間から、ときおり陽射しが現れる。見上げた冬の空には雲ひとつない。行き止まりに看板を見つけた。右手の、今度は急な階段を上がったところが目的地らしい。階段?とはいっても段差が大きくて、よっこらしょ、という掛け声が必要だ。
そこには小さな池を使ったスケートリンクがあって、子どもたちが歓声をあげながら遊んでいる。そのリンクの横にあるクラブハウスの中に、そのツアーの受付デスクある。僕たちが予約したのは、スケートではなく「野生動物のウォッチングツアー」の方だ。数人のネイチャーガイドたちが笑顔で迎えてくれる。歩きやすい服装、それ以外の道具は必要ないのだが、受付のときに、双眼鏡をレンタルをした。これは素人の僕たちにとっての必須アイテムだ。

10人くらいの申込者たちを、一人のネイチャーガイドが案内する。今回の参加者は概ね小学生の子供たちとその家族だ。簡単なガイダンスが始まった。ここは野鳥の森という国の施設に隣接するエリアで、春夏秋冬それぞれに楽しみ方がある。(今回の)冬は、木々の葉っぱが落ちるので、森の見通しが良くなり「野鳥の観察」に適した季節なのだそうだ。また、森にすむ野生動物たち(クマ、イノシシ、シカ、ムササビなど)は夜行性なので、基本的に出会うことはないが、その「痕跡」を見つけて探検するツアーらしい。
ガイドさんの本名は「ゆうじろう」らしいが、「ゆうさん」と呼んでほしいそうだ。気軽な自己紹介と、そんな簡単なガイダンスの後、ゆっくり遊歩道を進んで森に入っていった。距離は2kmほどで大したことはないのだが、2時間かけて森の中を歩くのだと言う。ゆうさんの解説はとても愉快で面白い。解説スポットごとにクイズ形式で質問を投げたり、見つけた鳥などは、その場でカラー図鑑を開いて、説明やギャグネタなんかを披露してくれる。ムササビの大きさを説明するのに、リュックから実物大のぬいぐるみを、ぬっと出したりする(笑)。ムササビは、クリの葉っぱを上手にクルクル巻いて、先端だけを食べるらしい。だから葉っぱは先端が欠けてハート型になるんだそうだ。子供たちは足元のクリの枯葉から懸命にハート型のやつを探していた。

最初に見つけたのは、シジュウカラだった。双眼鏡の使い方がヘタクソで、なかなかアップで観るのは大変だ。森の野鳥は飛んで逃げるというより、ピョンピョン跳ねて、そのあたりを動き回る感じだ。今度は、ツグミの水遊びを観ることができた。双眼鏡のレンズの中の2羽のツグミは、大昔に食べたあれかと思うと、申し訳なく感じたりする(笑)。
動物の痕跡の代表格は「けもの道」だ。動物は急斜面を移動するから、けもの道は必ず斜めに走っているらしい。一度教えてもらうと、あちこちに発見できる。下の小川に続くけもの道に、大きなイノシシの足跡があった。それを追うと、小川のそばの倒木のあたりに「水たまり」がある。それは「ヌタ場」と呼ばれる、イノシシの泥風呂らしい。そして大きな木の根もとに、カラダをこすりつけて泥を落とす。なので木の皮が枯れて、かさぶたのようになっている。

ゆうさんが指さすウワミズザクラ(桜の一種)の幹には、鋭い「くさび形」の跡と、長めに削ったような跡が、上の方までたくさん付いている。どちらも熊の爪の痕だ。くさび形は木に登るときの爪痕で、逆に降りるときは爪でブレーキをかけるから、長い傷になるらしい。面白いなぁ。
その木のずっと上の方に、枝を重ねた大きな鳥の巣みたいなやつがある。あんな上まで熊は登って、枝を折り、そのサクラの実(サクランボ)を食べるのだ。食べた枝は落とさずにお尻に敷いていくらしい。まぁ座布団みたいな感じかな。これを「熊棚(くまだな)」と言うのだそうだ。
ゆうさんは、真面目な顔で「熊の●んこは臭くない」と話し始めた。豊かな森で暮らす熊は木の実や果実が主食らしい。ガイドの彼らは野生動物の研究員でもあるので、見つけた●んこを棒でほじって、臭いを確かめるのだそうだ。甘い果物のような匂いだと力説していた(笑)。

そういえば、遊歩道の何か所かに募金箱(ポスト)が置かれていた。いまは、ある意味で人間の手によって、このような自然を守らなければならないようだ。豊かな森にはたくさんの木々が育ち、長い年月の間に大量の落葉を繰り返し、そして朽ちていく。そこには新しい陽だまりが生まれ、地面に太陽を伝える。倒れた大木は小動物の住み家になったり、落ちた葉とともに土にかえる。そんな土壌は豊かな水をたたえ、森に暮らす命をはぐくんでいく。野生動物たちは、本来そんな豊かな森に暮らしているのだ。
最後の坂道には、大きな葉っぱが大量に積もっていた。クッションのようで気持ちいいのだが、滑って危ない。でも大人も子供も、それを楽しむように駆け下りていく。ツアーのゴールは、最初に見つけた、あの急な階段の下だった。ちょうど森の中を一周した感じだ。
急階段の段差は危ないから、一人一人間隔を開けて登る。そのとき僕の前を登るお父さんのシューズに目が行った。どうやら、お父さんは大きな「動物の●んこ」を踏んだらしい。これが熊のやつなら臭いを嗅いでみてもいいかな、などと思ったが、もちろんそんな勇気はなかった。

このツアーデスク picchio.co.jp

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