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2019年10月18日

ホテルの時間「究極のサービスを感じるには・前編」

サービスのいいホテルはどこですか?と、しばしば質問される。自分の数少ない体験談の中にだって、確かに、いいサービスの記憶はいくつかあるのだが、それらはほとんど「どこそこより良かった」とか「思っていたより、はるかに良かった」というようなレベルの話だ。だが、良いサービスの定義を「感動する」ほどのレベルだと言い換えると、そうそう多くはない。感動するサービスを味わった顧客は、そのファンになっていく。
2014年、世界中に熱狂的なファンを持つ伝説のリゾートホテルが東京に進出した。場所は大手町、ホテルの名前は「Aマン東京」だ。プーケットで誕生したこのホテルは、アジアのリゾート地を皮切りに、世界へと広がっていった。このホテルのファンたちは、自分たちのことを「Aマン・ジャンキー」と称する。少し長くなるが、今日はそんな手品(マジック)のようなサービスのお話。

その日、僕は小松から羽田へ、当時はまだヨチヨチ歩きだった小さな孫を連れて東京へと向かった。杉並へ孫を送り届けなければならない。杉並へ向かう前に、大手町のこのホテルに立ち寄って荷物だけを預けることにした。まだチェックインできる時間ではない。
ホテルは上層階にあるが、その高層ビルの1階の森の中に直営のカフェがある(ほんとに森があるのだ)。その高い知名度のためか、オープン以来、大人気のカフェなのだという。この日も信じられない人数の行列が付いていた。みんなマダムばかりだ。それを横目にホテルのエントランスに入ると、1階にベルデスクがあった。そこで荷物を預ければいい。
ところがそこから、Aマン・マジックが始まった。荷物を受け取りながら、対応する女性スタッフは笑顔で、当たり前のように、専用エレベーターへ誘導し、33階のフロントエリアへ向かうことになった。顧客が望む限り、こんな時間でもチェックインに対応するのだという。彼女の目線は、僕ではなく、僕が抱えている「孫」にそそがれ、やたらと笑顔で話しかけてくれる。孫をいじられると、じいじは良い気分になる(笑)。

33階のレセプションフロアで降りたとたんに驚いた。目の前に巨大な吹き抜けの大空間が広がっている。ここがホテルロビーらしい。広い窓からの外光があふれる庭園のようなロビーだ。別の女性スタッフがロビー中央のソファーに案内し、おしぼりや飲みものを出す。これが、ここのチェックイン・スタイルだった。
僕は宿泊するが、孫は泊まる訳ではない。そう話していても、孫のための子ども専用ドリンクを用意してくれた。スタッフの女性たちは、次々に、小さな孫を抱えたおかしなシニア客に、気軽に会話を仕掛けてくる。特に孫への視線は熱い。
部屋への案内の前に、館内を案内してくれるらしい。ロビーには洒落たイタリアンレストラン、図書館のようなシガーバー、そしてラウンジが配置されている。特にラウンジはアフタヌーンティーを楽しむ女性客であふれていた。Aマン東京のそれは、ブラック・アフタヌーンティーと呼ばれ、ファン垂涎の人気メニューだ。当然、そんな話題になると「ご希望なら後ほど、お席をご用意しましょうか?」などと言ってくれる。いやいや、孫を連れてのアフタヌーンティーは勘弁してくれ、と辞退した。

女性スタッフの案内で、ひとつ上の階へむかった。ここは「スパ」のエリアで、眼下に広いプールが広がり、ガラス張りのジムがある。宿泊客は優先的に、エステやエクササイズを堪能できるらしい。
宿泊する部屋にも驚かされた。まずはその広さだ。ゆうに70㎡以上はあるから、一流ホテルの2倍の広さ、普通のホテルなら4部屋分ほどあることになる。風呂にはヒノキの風呂桶がある(驚)。1枚ガラスの巨大な窓からは、眼下に皇居の緑が広がっていた。テーブルにはホテルからのメッセージと果物、そして小菓子(あられ煎餅)が置いてある。スタッフが孫にそれを薦める。さっそく孫は煎餅の虜になって、ボリボリ美味しそうに食べていた。そんな光景に目を細めて笑ったのは僕ではなく、むしろスタッフの彼女の方だった。
良いサービスを受けるには、小さな孫を連れていくことだ(笑)。でも、もしかすると、それはホントのこと(本質)なのかもしれない。ちなみにチェックインや館内散歩の時間を使って、イレギュラーな僕たちの客室の準備をしたのではないかと想像していた。すごいな。(後編へつづく)

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