ホテルの時間「究極のサービスを感じるには・後編」
(ここからは後編)小菓子に夢中な孫を見ていて思い付き、どこかで軽い食事がしたい、と申し入れると、すぐに電話で返信があった。さっきの1階カフェに席を用意したという。33階のフロントロビーまで降りると、先ほどの女性がエレベーター前で待っていて、ハ~イ、と手を上げ、孫に微笑んでくれる。さらに一般エレベータまで案内されると、そこに別の女性スタッフが待っていて、僕たちを迎え、一緒に1階まで降りてきて、カフェへと案内してくれた。
カフェの大行列はそのままなのだが、どうやら宿泊客を優先的に案内するようだ。行列の皆さんには申し訳ないのだが、彼女の先導で店内に入ることになった。今度はカフェの女性マネージャーが出てきて、満面の笑顔で引き継ぐ。この間に登場したスタッフの会話は全て「O島さま」つまり僕の名前だけだ。まるでサッカーのゴール前のような見事なパスワークだった。案内されたガーデン側のテーブルには、孫用のかわいいイスと幼児専用の木製の食器類などが、大人用と一緒にセッティングされていた。手際良く、当たり前のように自然に振る舞いながら、先手先手のサービスが続く。食事の後、支払いを部屋付けに、と頼むと、サインもないままスマートに対応する。見事だ。
マジックは、その後も、ずっと続いていく。外で夕食をすまして、そうそうにホテルに引き上げた。いいホテルには早く帰りたくなる。もう夜遅くだが、コーヒーを頼むと、バーの一角にセッティングしてくれて、パティシエが見事なデザートプレートを作ってくれた。あの昼間の会話にあったアフタヌーンティーの担当パティシエなのかな?などと、うかつに言うと、いま呼んでまいりましょうか、と言い出す始末だ。いやいやそんな必要はないよ、と軽く断ることにした。
その後、部屋に戻ると、新しいメッセージとともに、部屋の果物や小菓子は、いつのまにか補充してある。もちろん違う種類だ。朝食では、誘導のときも、オーダーのときも、食事の最中も、珍しいほどスタッフとの会話がはずむ。ささいな会話の内容から、サラダの代わりにと、3種類のフレッシュジュースを作ってくれたりする。何から何まで、すごいの一言だ。書き出すとキリがない(笑)。
ちなみに、ホテルもカフェもレストランも、夜も朝も、すべてのスタッフが、僕の名前で声をかけてくる。会話しながら顧客の希望を、どんどん引き出しているようにも感じる。自然な誘いに乗ってワガママ放題の滞在になってしまった。こんなに多くのワガママを言ったことはない。
翌日、すべてに満足して、ホテルを出るとき、最後に声をかけてくれたのは、女性で小柄なベルスタッフだった。ぎこちなさが残る新入社員のようだ。タクシーを辞退し、徒歩で東京駅へ向かう途中、ふと思って振り返ると、彼女が遠くでお辞儀している。手を振って礼を返し、ワンブロック歩いて、信号で止まったときに、また振り返ると、遠くの彼女が、またお辞儀をする。もういいよ、と手でサインを送り、またワンブロック歩いて、東京駅へと左折するとき、米粒サイズの彼女が、またお辞儀をしている・・・・。そんな高級料亭のようなことをさらりとやってのける。
感動する程のサービス、となると、そうそう簡単に出会うことはない。だが出会ってしまうと、とても心地よい。孫がいたからだ、と初日は思っていたが、実際にはそれだけではなかった。滞在する間、ずっと感動するサービスのシャワーを浴びていたように思う。もう一度云おう。Aマン・ジャンキーという言葉がある。Aマン・リゾートの熱狂的なファンたちのことだ。この日以来、どうやら僕もその仲間になったようだ。
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