春一番が吹いて
2月のなかば頃になると、野菜売り場に「山菜」が並び始める。うるい、こごみ、うど、たらの芽なんかと一緒に、菜の花とか行者ニンニク、つぼみ菜なども登場する。何が山菜で、どれが山菜じゃないのか、そんなことはどうでもよくて、売り場に春が来たなぁと感じるのだ。
海好き釣り好きの知り合いのSNSに「ほたるいかの新物」の写真が載っていた。ぴかぴかの新物だ。まだ2月だというのに、富山の漁港の店頭で見つけたらしい。たしか解禁日は3月だと思うが、地元の人だけの特権なのかもしれない。
刺身とか釜揚げで食べようか、などと書いてあるのだが、きっと旨いに違いない。そこに氷見の「ながらも」のかき揚げも載っていた。いわゆる「アカモク」という海藻で春先の短い期間だけ出回る珍品だ。いつだったか、その「しゃぶしゃぶ」を食べたことがある。見た目は茶色のホンダワラみたいなやつなのだが、湯に落とすと、パッと美しい緑色になる。それを酢醤油とかチリポン酢で食べるのだ。まぁ春色の料理かな。
春一番というコトバは、キャンディーズで知ったのだと思う(笑)。ファンではなかったのだが、なぜか毎年思い出す。もう大学生だったと思うが、その当時は、春のうららの、さわやかな風で、人々の心をホッとさせるようなものだと思い込んでいた。曲調や彼女たちのイメージを勝手に重ねていたのだろう。大人になるにしたがって、それは日本海の低気圧に流れ込む南風による「強風」だとか、その後は「寒の戻り」があって寒くなり、実は、春二番や春三番もあるんだとか、無粋な現実を知ることになった。今なら「砂ぼこりの強風」みたいなイメージかな。
この日の朝のことだ、自宅の庭に、珍しく「松ぼっくり」が転がっていた。鳥か小動物が運んできたのかな、などと思ったが、そうではないようだ。庭の枯れた芝生には色がなくて、そこに松葉の枯葉もたくさん積もっている。そういえば、この週末は、風が強かった。どうやら今年の「春一番」らしい。強風によって、隣の公園からフェンスを越えて転がってきたようだ。こんな、色のない枯れた景色で春の訪れを感じろと言われてもなぁ(笑)。もうすぐ春ということは「花粉」と「黄沙」の始まりでもある。なんだかなぁ。
料理当番の日、今夜は山菜の天ぷらを作ろうと思った。ほたるいかと菜の花のペペロンチーノもいいかなぁ。まぁ富山産のほたるいかは無理だけど、うるいの胡麻和えとか、うどの酢味噌も旨そうだ。とはいえ、買えた材料には限りがあるし、料理の腕にも限界がある。
たらの芽の天ぷらは旨かった。薄い衣にしたのが正解だ。抹茶塩とかアリオリソースなどと洒落たことも考えたが、揚げたてに、ただの塩を振るだけで十分旨い。台所でビールを開け、立ったまま、つまみ食いを楽しんでいた。
しかしその後、こごみの天ぷら、そら豆と小海老のかき揚げ、と連敗が続いた。準備に手間取り、つまみ食いに気を取られて、揚げすぎたり、かき揚げの油温が低かったりという初歩的な失敗ばかりだ。これじゃぁ写真も撮りたくない(笑)。僕の料理には「春の色」が全くないのだ。
失敗してバラバラになった「そら豆」の天ぷら(のようなもの)をつまみながら、これでも十分旨いんだけどなぁ、と自己弁護していた。僕の春はこんな感じで始まった。