ジジイは「まさむね」に反応する
ポカポカしていて、空が高いなぁと感じる。春だな、と少し浮かれて春の歌を口ずさんだりする。ジジイは最近、季節の移ろいに敏感だ。
今頃になって、なぜか「太郎の鍋」を思い出す。今年もついに行けなかった。そうすると、なぜか続いて「みふくの鍋」も食べたくなる(笑)。おそらく1年に1度は思い出すのだろうが、もう10年以上、どちらも行っていない。主計町のこの2軒は冬の金沢の代名詞だと思う。あぁ思い出した、やっぱ旨いんだよなぁ、あの鍋が。
この2軒の鍋は、それぞれ「よせ鍋」と「牡蠣鍋」なわけで、鍋だけで言えば全国のどこにだってあるものなのだが、昔気質(昔かたぎ)の僕にとっては、金沢グルメという軽い表現ではなく、むしろ金沢の食文化の象徴みたいなものだ。ジジイはそう主張したいのでR。だから、2軒共通のデザート、つまり、あの「みかん」だって、笑みを浮かべて愛おしいと思うのだ。なんだ、ただのみかんじゃないか、これは手抜きだろう、などとは絶対に言わせない(笑)。
金沢には、そんな「昔気質」な気分で使いたくなる店がたくさんある。概ねそこには昭和感が残っていて、少々古臭くて「〇〇の専門店」と呼ばれるような店だ。そこで店の自慢の料理を、昭和ジジイっぽく楽しむのでR。そして次は、酒だ。そんな料理を食べるときに、何を合わせればいいのか、というモンダイになる。僕の場合は、あえて、その店の「ハウス日本酒」を飲むことにしている。イメージで言えば「福正宗」あたりだろうか。通称「ふくまさ」だ(もちろん萬歳楽や日栄の場合もあるけど)。
たしかに僕は部類の日本酒党ではあるが、こんな時は「店の流儀」に添わなければならない。通ぶって、鍋には山廃がいいなぁとか、この時期なら春酒はあるの?とか、何々(ブランド)はないのか、などと言ってはいけない。好きなブランドやタイプがあるなら、自宅で飲めばいい。ジジイはそう思うのでR。書きながら、おでん屋さんのコップ酒が飲みたくなった。店には各種の地酒もあるのだが、コップ酒だけは「ふくまさ」を「ぬる燗」で、と言いたい。僕にとっての「ふくまさのコップ酒」は、金沢おでんと一体のものなのだ。
ちなみに、〇〇なのでR(あ~ると読む)、という文末の表現は、あの嵐山光三郎さんのウケウリだ。面倒くさいジジイを気どって書いてみたが、僕には使いこなせないので、ここでやめておく(笑)。
さて「まさむね」と聞いて、誰もが最初に思い浮かべるのは、伊達政宗(あの独眼竜)だろうか。伊達男という言葉の語源のひとつらしい。まぁ人目を引くような派手な男というイメージかな。そして日本刀の代名詞にも「正宗」というやつがある。正宗は鎌倉時代に実在した名工(刀鍛冶ということかな)の名前らしい。武器ではあるのだが、その美しさが特徴なのだそうだ。
一方、日本酒にも「正宗」というやつがある。というより、全国にたくさんある。それぞれ〇〇正宗という名前で売られている。身近な例では金沢の「福正宗」もそうかもしれない(事実は知らない)。その昔、灘(なだ)に生まれた銘酒が「桜正宗」という名前で、それが江戸を中心に爆発的に売れたのだそうだ。そして、その時代の全国の蔵元が、その名前にあやかって、次々に〇〇正宗が誕生していったらしい。
だから今でも、どこかの歴史を刻んだ老舗の料理屋さんあたりで、創業以来ずっとこれだ、と扱っていそうな気がする。そう言えば、あの「神田やぶそば」には「菊正宗」しか置いてなかった。正月飾りと一緒に並べられた菊正宗の菰樽(こもだる)を見て、潔さ(いさぎよさ)とか江戸っ子らしさを感じたものだ。
で結局、今回は何の話かと言うと、気まぐれに飲んでみた「なべまさむね」という日本酒の話だ。ある意味で古くて、だけど新しいネーミングだ。名前からすると「鍋」に合うように作った酒ですよ、と言っているのだろう。でも、老舗にも専門的な料理にも合いそうな顔はしていない(笑)。去年のある日、酒屋で見つけたのだが、何ともほのぼのとした「イラストのラベル」が珍しくて興味を持ってしまった。イラストだけを見ると、全く日本酒らしくない。でも、名前に誘われて買ってみることにした。鍋に合う、というより「鍋と一緒が楽しい」と言っている気もする。
実はこの酒は、僕の地元の酒「手取川」を製造している「Y田酒造」の商品だった。全国的に年々需要が減少する業界なのだが、近年は若い層とか時代性を狙った商品開発が進んでいる。きっとこの酒も、蔵元から「これからの消費者」に向けた新しいメッセージなのだろう。若い世代の蔵人の、そんな思いや冒険心を強く感じている。彼らのマーケティング手法も見事だと思う。だから最近の日本酒は、どれも楽しい。こんな昔気質の面倒くさいジジイの僕でも、ついつい応援したくなる。
この日の酒屋には、若いカップルの先客がいた。店の若い看板娘が二人の横に立って日本酒の説明している。何やらワインと同じように料理とのペアリングのハナシだ、なるほど今っぽい。これからの日本酒は、ある意味で世界中のワインのような位置づけになればいい。この「なべまさむね」も面白い。値段は安いのに、山廃大吟醸らしい。鍋と一緒にっていうのは案外本気なんだな。あの若い社長は頑張っているようだ。
さて、春のニュースを見ながら、僕が口ずさんだのは、あのスピッツの「春の歌」だ。まぁ歌えるのは「春のう~た~」っていう一部だけどね。なんの関係もないんだけど、草野さんの名前ってたしか、マサムネ、だったよね(笑)。