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2021年03月12日

本の時間「プロットの見事な回収」

去年は、ホントに小説が読めなかった。ステイホームで、自宅にいる時間が長くて、何もすることのない時間がたっぷりあったから、さぞかし、たくさん読めただろう、と言われそうだが、まったく逆だった。数えるほどしかない。
ビンボー症の僕は、自宅にじ~っとしていると、日頃やらないことも、やってみるか、などと、あれこれ忙しくなってしまい、本を読むのが後回しになった、そんな感じだったかもしれない。小説は読めなかったが、なぜか専門系の雑誌はよく観てた。Web動画も観るようになった。そういえば、深夜の再放送とか、なぜか過去のドラマなんかも観てたなぁ。家でダラダラするっていうのは、僕の場合はこんなことだった。でも、近所の本屋へ通うリズムは変わらないから、ついつい買ってしまって、読まないままの小説が、どんどん増えていった(笑)。
とはいえ、読んだ数が少ない分だけ、読んだ小説は、珍しく「ゆっくり味わった」気がする。いつもなら苦手なミステリーとか推理小説、つまり、ある種の「謎解き」も嫌がらずに読んでいた。せっかちな僕は、作者が仕掛ける謎に出会うと、イライラして、早く答えを言え、と思うタイプだ。だからストーリーは楽しむが、推理しながら読むなんて器用なマネはできないのだ。

プロット(伏線)の回収、という言葉がある。詳しくは分からないが、ストーリーの端々に、伏線やヒントを仕掛けておいて、一見すると無意味なことも、ラストでは見事につながる、って感じだろうか。作家の腕の見せ所かもしれない。
去年読んだ本の中に、マスカレードナイト(〇野圭吾)と、ドクターデスの遺産(〇山七里)がある。スタイルも緊張感も違うが、どちらも警察もので推理ものだ。また男女のバディーが活躍するのも同じで、そういえば映画化されるのも共通だ。ネタバレになるから詳しくは書けないが、いわゆる犯人探しなので、作者のプロットの巧みさもあったし、結末までのストーリーの面白さが光っていた。映画化のキャスティングが発表されているから、役者さんの顔が浮かんで楽しく読める。
小説と違って、テレビドラマなら、伏線は概ね簡単にわかることが多いかもしれない。いわゆる「あっ、いまフラグが立った」と、すぐに気付くのだ。テレビの場合は、巧妙なプロットというより、想像させるための「前フリ」みたいな感じだろうか。セリフでもキャスティングでも「分かっちゃう」ことが多い。某大河ドラマの場合、最終回に向かって「本能寺の変フラグ」がどんどん立っていった(笑)。いわゆる「前フリ」の連打だ。脚本家が、世に言う黒幕説や共謀説などを横目で見ながら「結末を知っている視聴者」の納得を得ようとしたのかな。

このプロットの巧みさと、ラストの見事な回収に、とても驚いた本に出会った。ホワイトラビット(〇坂幸太郎)だ。表紙の帯には、警察VS籠城犯VS泥棒とか、全てを疑えとか、〇坂史上最高の「騙し合い」が幕を開ける、などとキャッチが並ぶ。予測不能の籠城ミステリー、らしい。
先に読んでしまった家内が云うには「あなたには向いていない本かもね」なのだそうだ。たくさんのプロットが散りばめられていて、こんな「せっかちな僕」には、ラストまで、とても我慢できないはずだ、という主張のようだ。ちょっとした反発心も芽生えながら、ページを開いた。あいかわらず、ほわん、とした語り口で物語が始まる。もちろん、どんな内容なのかは書けないが、僕にとっては昨年のナンバーワン作品だった。せっかちでも楽しめるのだ(笑)。
どこかの識者が言っていた。大事なことほど、大げさにしない。フツーに、自然に、さらりと触れていく、そんな作家なのだそうだ。まぁベタな表現だが、さまざまな出来事が、ラストに向けて、絶妙にハーモニーを奏でる。まさに、プロットは見事に回収されていくのだ。ファンだけでなく、久々に面白くて、おすすめしたい作品だった。

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