舌の記憶「きんちゃく」
ある日、お餅の話になった。最近は食べる頻度が一気に落ちてしまった。とんとご無沙汰している。今でもときどき食べたくなるから、サトウの個食パックのやつを探すこともある。食べるのは1個か2個だから、個食パックしか選択肢がない(笑)。
お餅は昔から大好きな食べ物だった。もちろんお正月をきっかけにした冬の食べ物だ。まだ小学生の頃だろうか、大晦日近くになると、近所の和菓子店から「のし餅」が届いた。それを切り分けて「切り餅」にするのが僕たち子どものシゴトだった。届いた日にやらないと、一気に固くなって、子どものチカラでは切れなくなる。子どもが切った餅は、カタチもサイズもばらばらなのだが、今から思えば、ほほえましい風景だった気もする。
正月の食卓は雑煮で始まるのだが、それ以降は食事というより小腹が空いたときの「おやつ」のようなものだった。だから、親の手を借りず、自分たちで作って食べていたように思う。練炭火鉢の上で焼いて、醤油を塗って二度焼きするのが好きだった。火鉢がストーブに代わってからは、醤油を垂らすことができなくて、鍋に入れて柔らかくしたやつを、大根おろしで食べるのが好きになった。
途切れ途切れの記憶だが、その昔、東インターの近くに「きんちゃく」という名前のうどん店があったと思う。記憶では「金ちゃく」だった気もする。いわゆる古民家風、民芸風の店で、座敷に座って食べていたような気がする。どこか別の店の記憶と入れ替わっている可能性もあるが、テーブルで炊き上げる「鍋うどん」が何品かあってとても旨かった。鍋には、かならず「餅」が付いていた。しかも、つきたての柔らかい餅だ。うどんを食べた残りのダシで、最後に「おじや」を作るのだが、そこに餅を入れる。そんなスタイルだったように思う。この、おじやまみれの餅が抜群に旨かったのだ。
この店は餅好きの僕のお気に入りとなり、近くへ行けば必ず立ち寄った気がする。さらにサイドメニューとして、つきたての餅の単品メニューがあった。磯辺焼き、きなこ餅、おろし餅なんかがあったと思う。そんな単品の餅を一緒に注文するのが、ささやかなぜいたくだった時代だ。その店は、いつも間にか姿を消してしまった。残念だが、仕方がない。
僕は「鍋」が好きなので、ほぼ一年中いつでも鍋を食べていた。色んなタイプの〇〇鍋を試したし、ダシの種類もたくさんあるのだが、一番落ち着くのは、なぜか「うどんだし」の鍋だった。うどんだしとはいえ、締めが「うどん」ということではない。実は、お餅が一番だった。今から思うと、その源流は、この「金ちゃくの餅」なのかもしれない。
こんなことを書きながら、金ちゃくのメニューを一品思い出した。「おじやうどん」という一番安い鍋うどんだ。うどん、ごはん、お餅の三つを同時に放り込んで焚き上げる鍋で、ランチ限定メニューだったような気もする。
正月用の餅がまだ残っているはずだ。よし、今夜は「おじやうどん」を作ろう。でも、この炭水化物の掛け算では、賛同は得られないかなぁ(笑)。