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2022年12月10日

散歩の途中で「早稲田から神楽坂へ」

神楽坂は好きな街だ。その裏通りの狭い階段を登ったところに、一軒のお気に入りのホテルがあった。2021年にクローズした「アグネスホテル&アパートメンツ」だ。緑の林の木々に囲まれた小さなホテルだった。少し古いのだがとても静かで、その佇まいが大好きなホテルだった。クローズのニュースを知って、ある日の神楽坂のことを思い出していた。今日はそんな散歩のハナシをしようと思う。

この日、僕たちは大塚にいたのだが、どうしても「都電の荒川線」に乗ってみたくて、早稲田までの短い区間を試すことにした。今どき、たった一両の小さい路面電車が都内を走っていることに興味を持ってしまったからだ。荒川線の駅は、JR大塚駅のすぐそばにあった。
何人かの乗客らしき人達が列をついている、あのあたりが乗り場みたいだ。キップ売り場や券売機が見当たらないので、乗り方が分からない(笑)。最後尾のおばあさんたちに尋ねることにした。
電車に乗るときに運転席のところで払うのよ。釣銭がいらないように小銭を170円用意するの・・・。と、おばあさんは丁寧に教えてくれた。要するに荒川線は路線バスのような仕組みで、どこから乗っても170円、それを乗るときに払うようだ。

乗り込んだのは、意外なことに最新車両でスマートな電車だった。あの踏切で見ていた古いレトロな車両しか知らなかったから、少し拍子抜けした。乗り心地は快適で、ガタンゴトンとチンチン電車に揺られるイメージだったから、これも拍子抜けだった。
早稲田に降りた。目的地の神楽坂まで向かうから、ここからリーガロイヤルホテルを目印に歩いて、早稲田大学のキャンパスを抜け、今度は東西線に乗るつもりだ。キャンパスには汗くさい運動部系の男子はいないし、当たり前だが昭和のアジ看板もない(笑)。早稲田の森には、公園が整備され、おしゃれなカフェがあったりして、学生たちにまざって子連れのママ達がくつろいでいる。キャンパス風景もずいぶん変わったんだなぁ。

神楽坂駅で降りて長い坂道をくだり、途中の横道へと入っていって裏路地をぶらつく。そんな夕暮れの神楽坂散策が始まった。今日は気軽な男二人旅なので、自分の嗅覚を頼りに、夜の神楽坂で良さげな店を見つけ、一杯ひっかけて、新宿あたりへ繰り出すつもりだ。でも土曜日だから、誰もが知っているような有名どころは、予約でいっぱいだろうなぁ。ウインドーショッピングのように、そそる店を眺めながら歩き、ようやく一軒のイタリアンで、少し早めの軽い食事を楽しんだ。
このイタリアンは、あの「石かわ」のすぐそばにあった。毘沙門天横の「神楽坂石かわ」は三ツ星和食の名店だ。その姉妹店の「琥珀」と「蓮」も、当時は神楽坂にあって(僕の記憶が正しければ)3軒の星の合計は8つだと思う。ロブション並みだな(笑)。
せっかくのイタリアンだというのに、和食の店のことばかりを話していた。この街には和食の方が似合う感じもする。もっと計画的な旅なら、そっちのほうがよかったかもしれない。イタリアンで1杯飲んでいる間に、陽が落ちてすっかり夜になった。そろそろ夜の神楽坂が始まる時刻だ。裏路地の店の玄関に灯がともり、小さな黒板や暖簾が出始める。日中は行列の神楽坂茶寮も夜は静かだ。こんな時間のテラス席は気持ちよさそうに見えた。

ホテル「アグネス」前の公園では祭りをやっていた。こんな場所にも日本の祭りがあるんだ。着物姿の女性たちが、やけに美人に見える。すこし来ないうちに、新しい複合施設とか、知らない店が出来ていて、神楽坂の街の表情が少しずつ若返ったように感じる。知らなかった裏道や長い階段を見つけたりしながら、路地の階段を降りて行ったら、そそる和食店の小さな看板を見つけた。
さっき二人で話してた「琥珀」だった。小さなエントランスにも師匠の店と共通する美意識を感じる。師匠とか弟子とか、技の伝承とか職人の矜持とか、神楽坂の街の景色が、そんなことを考えさせるのかもしれない。
神楽坂は、迷路のような細い路地を歩きながら、新しい店を見つけて、ふらりと立ち寄るような、そんな大人の過ごし方をしてみたくなる不思議な街だ。とはいえ、それは一緒に歩く相手による。できれば、しっぽり歩きたい。今日のパートナーの顔を眺めて(ひげ面のおっさんだ)、ふっと笑みが浮かんで、新宿へ向かうことにした。おっさん二人には、思い出横丁あたりが似合いそうだ。

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