通知簿で一日が始まる
昔のカーナビには、大阪弁バージョンがあった(と思う)。もしかすると男性の声だった気もする。勝手なイメージで言えば、まいど、案内しましょかぁ、ぼちぼち右ですう、とか言う感じだったのかな(笑)。もちろん、僕には大阪弁と関西弁の違いも分からないし、きっと男ことばと女ことばは違うものなのかもしれない。メディアに登場する関西芸人たちの独特の言い回しを、ニュアンスだけ真似していたんだろうな。
たしか、シゴトで遠方へと向かうレンタカーに搭載されていたのだと思う。選択できた「方言」の種類は忘れてしまったが、いくつか選択バリエーションがあったような気もする。当時は、大阪の人たちとの交流が多かったこともあって、さかんに大阪弁を練習していたから、そのときは違和感なく大阪弁バージョンを選択したのかもしれない。
時を経て、カーナビは身近なものになり、当たり前だが今は、女性の声で標準語の設定だ(笑)。
少し前に、わが家の車にドライブレコーダーを付けた。流行には疎いので、身近に必要性を感じていたわけではない。ちょうど保険の更新時期で、提案された3案の中にドライブレコーダー特約みたいなやつがあった。たいした理由もないのだが、この車の主な運転手は家内なので、僕が興味本位にそれを選んだだけだ。後日、保険会社から機器が届き、それを搭載するだけ、という簡単なものだった。
ドライブレコーダーは、日々の運転を録画するもの。それが事故のときに役に立つ、それくらいの認識しかなかった。だから、初日から面食らうことになった。このドライブレコーダーは、とにかく「しゃべる」のだ(笑)。もしかしたら、取説をしっかり読めば、ある程度の設定変更ができるのかもしれないが、なにせ保険会社からの貸与品なので、そうもいかない。もとより、設定変更するほどの興味もない。なので、されるがままだ(笑)。
ほぼ毎日運転する家内は、もう慣れたようだが、使用頻度の低い僕には、まだ違和感が残っていて、少々否定的に反応したりしてしまう。ボイスレコーダーの声の主(ぬし)は女性で、年齢不詳、標準語を操る、当たり前だが美声だ(笑)。彼女は、まるで学校のセンセーのように、たくさんの生活指導、いや、運転指導をしてくれる。その頻度は、指導課の某先生より頻繁で、見逃すことはない(笑)。
彼女の指導は、朝エンジンをかけたときから、もう始まる。「前回の運転の評価は・・・Aです」という通知簿のようなセリフで一日が始まることになる。彼女の繰り出す指導のボキャブラリーは豊富で、ついつい返事や反論をしてしまう(笑)。「急発進、急加速が続いています、ご注意ください」「ふんわりアクセルに心がけましょう」など言われても通勤時だからしかたないよ、などと言い返す。ビルの駐車場をぐるぐる上がると「運転がふらついています、ご注意ください」とくるので、おいおい勘弁してくれ、と返したりする。
でも、慣れてくると、わかったわかった、おっしゃる通りです、と思うようになるから不思議なものだ。「大雨が迫っています・・・」「夕暮れ時の運転には・・・」「不要な荷物を積んだままにすると燃費が・・・」などのセリフを聞くと、近所の世話好きの昭和的おばちゃん(失礼、大人の女性)にも思えてくる(笑)。
ある日、保険の専門家の友人に尋ねてみたことがある。彼に聞いて理解を深めた。結局、僕のようなへそ曲がりでも、たしかに運転が丁寧になるのは間違いない。保険商品としての効果は、双方に大きいということだ。まぁ、たしかに僕は女性のお願いには弱いんだ、降参。