舌の記憶「韓流ブームの残り香」
先日、ようやく映画「パラサイト・半地下の家族」を観た。まぁその感想はともかく、僕は15年ほど前の韓流ブームの頃を思い出した。いまから思えば、第1次ブームの頃ということになる。日本中があんなに熱狂していた「冬のソナタ」は観なかったが、「チャングム」は観てしまった。まぁ、はまったんだと思う(笑)。当時はいくつかの韓流映画もレンタルしていた。どれも面白かったと思うが、もうタイトルは思い出せない。
そして、仕事柄、韓国料理もずいぶん食べた。そもそも辛い物は苦手で、辛口カレーを食べるだけで風邪をひくくらいだったのだが、食べ続けると、辛さと旨さが同居してくる。もちろん全ての韓国料理が辛いわけではない。辛くないのもたくさんあった。チヂミやクッパなどという焼肉店で食べていた男くさい韓国料理だけでなく、もっと専門的な料理を食べるようになった。「サムギョプサル」「スンドゥブ」「サムゲタン」「タッカルビ」「タッカンマリ」「ケジャン」・・・今では当たり前のメニューも、当時は恐る恐る、口にしていた。美容の側面があったためか、女性に絶大な人気を誇っていた。
あるとき、上野のキムチ街を歩き、新大久保の裏通りをさまよったことがある。ブームの人気店や、若者であふれる表通りから一本入ると、もはや外国の路地裏のように、薄暗くて怪しかった気がする。有楽町のガード下には韓豚屋(はんでじや)という店があった(今もあるのかな)。ガード下特有のレンガのアーチに豚顔のキャラクター看板があって、昼も夜も若い人たちで溢れていた。そういえば「半地下」のような店だったような気もしてきた。映画を観た影響かもしれない(笑)。
ある夜、銀座のしゃれた韓国料理の店を探して訪ねた。場所は銀座の裏通り(今ならGINZA SIXの裏あたり)だったと思う。「けなりぃ」という店名で、鉄板焼き?とか串焼き?をウリにする韓流グルメの人気店だった(残念だが閉店したようだけど)。ビルの狭い階段を降りていき、独特のドアを開けると、そこに韓国があった。
驚くほど女性ばかりの店内は熱気にあふれ、ほぼすべてのテーブルに「サムギョプサル」が乗っていた。カセットコンロの上に独特の形をした鉄板が乗り、分厚い豚の三枚肉を焼き、その脂で、キムチやニンニクを一緒に焼いていく。ハサミで切り、サンチュやレタスに乗せ、サムジャン(専用の味噌)を付けて手巻きし、大きな口をあけて頬張る。これが旨い。どの料理も盛り付けがキレイで美味しかった。辛い料理として有名なタッカルビは、日本人向けなのか、チーズをたっぷりかけて食べると、辛さが隠れてとても美味しくなる。一緒に飲むマッコリ(どぶろくみたいな醸造酒)はヤカンに入っていて、湯飲みで飲むスタイルだった。
当時は近所のスーパーでも、韓国商材売り場の陳列面積が一気に広がり、野菜売り場でも、サンチュやエゴマは当たり前の常備アイテムになった。自宅の冷蔵庫には当時、サムジャンやコチュジャンの瓶が並び、チゲのスープは、我が家の定番の鍋のひとつだった。色んなことがあって、あの韓流ブームは急激に冷えてしまったのだが、その後も、自宅のバーベキューでは、サムギョプサルを作ることがあったし、寒くなればチゲの鍋(スンドゥブとかブデチゲ)を楽しむこともあった。
話題になったK-POPによる第2次ブームも終わり、次にやってきたのは、食べ物を中心とした第3次ブームらしい。日本でのコリアンフードは低年齢化が進んだようで、今では独特のタッカンジョンとか、チーズハットグ、UFOチキンなど、手軽なスナックへと広がってる。最近は、台湾スイーツなんかも人気になって、どの国の食べ物なのか、なんて、どうでもいい感じになった気もする。もはや食べに行くほどの興味も元気もないのだが、思い出してしまったので、さっそく今度のバーベキューで、どれかに挑戦しようか、などと思ったりする。でも、辛さに気を付けないと、また風邪をひきそうだ。映画を観て、ブームの残り香を感じている。