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2022年01月01日

本の時間「万城目ワールド」

毎年、正月を迎える頃になると、なぜか彼の小説を思い出す。実は去年の新年最初の編集後記にも、彼の作品のことを書いている。そんなことを思い出して、あえて今年も彼の作品のハナシから始めようと思う。

万城目学(まきめ・まなぶ)の小説は、結構好きだ。奇想天外、驚天動地の不思議なファンタジーは、僕のような妄想癖のある変わった奴に、強い支持を受けるんだろうな、と思うことがある。去年の秋もそうだったのだが、サンダーバードで「西に向かう旅」に出ると、車窓の景色と一緒になぜか彼の作品を思い出すのだ。
左に琵琶湖が見え始めると、彼の作品「偉大なる、しゅららぼん」をまず思い出す。京都に泊まれば、静かな夜に「鴨川ホルモー」の存在を感じたりする。大阪城を思い出すと「プリンセス・トヨトミ」のストーリーが浮かぶし、奈良まで足を伸ばしたら、きっと「鹿男あをによし」を思い出すことになるのだと思う。僕にとっての関西の不思議は、そのまま万城目ワールドの影響なのかもしれない。

「偉大なる、しゅららぼん」は、ある特殊な「力」をもった「湖の民」のお話で、読むと琵琶湖の「あれ」の存在を感じてしまう、少しコミカルで不思議な群像劇。なにが面白いのかと聞かれると困るのだが、ファンになってから読んだ作品。
「鴨川ホルモー」は、ホルモンとか焼肉の話ではなく、小さな鬼を操る「謎の競技」サークルをめぐる、大学生たちの青春ストーリーで、ファンになったキッカケの作品。夜の京都の神社の境内で、この競技会が、ひそかに今も続いている気がする(笑)。
「プリンセス・トヨトミ」は、大阪夏の陣に端を発した「大阪国」と「会計監査院」が戦うお話。映画化が決まり俳優陣が発表されたときに読み、その後、映画も観たので、けっこう記憶に残った作品かもしれない。
その後も「とっぴんぱらりの風太郎」や「バベル九朔」などを読んだ。たまたま去年の今頃は「パーマネント神喜劇」を読んでる途中だった。やはり、どの作品にも万城目ワールドの不思議な世界が広がる。

万城目学は大阪の出身で、京都大学法学部を卒業している(ロザン宇治原は同級生らしい)。何かのインタビューでは、関西が大好きなのだと答えていた。今更だが、やはり大阪はお笑いの街なのだと思う。お笑いの世界は、まじめに演ずれば演ずるほど、観ている者が引き込まれて、そこにちょっとした「間(ま)」が生まれる。その「間」に矢を射る、そんな瞬間の芸だと思う。
万城目学は不思議なファンタジーの世界を、真面目に、ていねいに描き、さまざまな固有名詞(うその世界)を駆使して、矢継ぎ早に語りつくしていく。そんな文章の隙間に、ひょいと愛情や義理や運命を散りばめる。現実離れしていて胡散臭いのだが、読み終わったあと、心から笑える、そんな愉快な作品ばかりだと思う。まだ読んだことのない方には、気分転換の一冊にお薦めしたい。

いまも、本屋で彼の作品を見つけると興味が湧く。しかし作風は面倒くさいので、ちょっと躊躇したりする(笑)。僕の勝手なイメージで言えば2~3年に1冊くらいのペースでしか出会えないから、作品数が少ない作家なのかもしれない。
中には全く違う作風の作品もある。「悟浄出立」というタイトルの短編集だ。これは、従来のものと全く違っていて、例えはおかしいが「本格的な小説」なのだ(笑)。どの短編も、中国古典の脇役を主人公にしている。たとえば巻頭はタイトル通り西遊記の沙悟浄の話だ。「まえがき」を読むと、「あとがき」を先に読んでから本編を楽しんでくれ、などと書いてある(笑)。なので、そんな作者の「命令」にしたがって、一編ごとに「あとがき」を読んで、次に本編を読む。面倒くさい作家だなぁとは思うが、これはこれで、とても楽しい。短編集も、やっぱり万城目ワールドなのだ(笑)。
疲れる毎日を自覚しているのなら、こんな、ちょっとした曲者(くせもの)のファンタジーが一番の処方箋だと思う。

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