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2022年01月08日

ホテルの時間「空に浮かぶメッセージ」

制限が解除され、感染者数も驚くほど低水準が続き、コロナも終息か、などと報道され始めた頃だった。でも、浮かれたわけじゃぁない。そろそろ東京へ行ってこようか、ある日、思い付いて東京のホテルの公式サイトをあれこれ眺めていた。そして、そんな外資系ホテルの宿泊費が、どこも大きく下がっていることを知って驚いた。有名どころのホテルは概ねピーク時の半額と言って良いくらいの値段だったからだ。
制限が解除されても、人のココロの問題は根強くて、そう簡単にホテル業界が活況づくわけではない。一昨年の秋頃のGoToのような破格の支援は、今はない。インバウンドはもちろんゼロだから、東京の外資系ホテルはどこも大変なのだと思う。仕事上の興味は猛烈に強くなっていた。旅のパートナーの誕生日も近かったから、東京でのお祝いを口実に予約することにした。実に丸2年ぶりの東京、ということになる。

このホテルは、コロナ渦の真っ最中2020年9月に開業した。そして異例の速さで、翌年にはミシュラン5つ星を獲得した。ということは、すごい水準のはずだ。仕事上とはいえ、そんな単純な興味で、旅の目的地はこのホテルに決まった。とはいえ、2年のブランクというのは変なもので、ホテル以外に、行きたい場所が見つからない(笑)。レストランも思い浮かばない。行けないことが前提だったから、東京の情報が圧倒的に少ないことに気づいた。特に誕生日のディナーをどこにするのか、意外なほど四苦八苦した。
まぁ、いつものように気楽な行き当たりばったりの旅がいい。東京散歩ってやつかなぁ、そんな自己弁護をしながら、履きなれたスニーカーに、ほぼ普段着のまま、東京駅からホテルに向かった。外資系ホテルの良さは、こんなラフなスタイルが似合うことだ。
ホテルがあるのは大手町だった。まだ12時くらいでチェックインはできないから、荷物だけを預けるつもりだ。東京駅から歩くには少し遠くて、タクシーで乗りつけるには近すぎる。なので、地下鉄で向かうことにした。でも、地下街をあっちへこっちへ、それなりの距離を歩くことになる。けっきょく地上か地下かの違いだけで歩いた時間はさほど変わらない(笑)。

フロントから客室へとエスコートされた。スタッフが客室のドアを開け、うながされて中に入ると、キーと連動して窓のブラインドが上がり始め、大きなガラス窓から室内に外の光が差し始めた。客室は34階なので、眼下に大手町のビル街が広がっていく。
ブラインドがあがり切ったとき、驚いて、僕たちは思わず「お~っ」と声を上げた。ガラス窓に手書きのメッセージが描かれていたからだ。そのメッセージが、まるで東京の空に浮かんでいるように見えた。
ほどなくして、今度は小さなケーキが届けられた。ここにも小さなメッセージが添えてある。やられたなぁ、60代の夫婦には似合わない演出かもしれないが、とても嬉しかった。当事者の家内はもちろんのこと、僕もテンションが一気に上がった。楽しさに年齢は関係ないものだ。
このサプライズを仕掛けたのが僕なら、ちょっとすごい自慢話なのだが、実はそうではない(笑)。このホテルのチーフコンシェルジュのA嬢が、僕たちに準備してくれたプレゼントだった。

ハナシは到着時に戻る。僕たちはホテル1階のレセプションに着いた。カスタマーリレーションの若いスタッフがマナー良く自分の名前を告げて声を掛けてくる。荷物だけ預けたい旨を伝えると、僕の名前を確認しながら手際よく対応してくれた。ところが、こんな時間なのに部屋の準備ができていて、チェックインできるらしい。僕たち二人は専用エレベーターで39階のフロントへ案内された。チェックイン手続きが終わるころ、そのチーフコンシェルジュのA嬢が現れたのだった。
どうやら部屋はグレードアップされていて、彼女がその部屋までエスコートしてくれるらしい。館内のレストランを丁寧に案内し、スパや、フィットネスなどの施設のことなどを詳しく解説してくれる。そして色んな雑談をしながら客室へ向かった。
実は、彼女は、僕たちの甥っ子(同じ業界で同じ業種だがホテルは違う)の先輩だった。彼女はこのホテルの開業のときに前のホテルを離れたのだが、どうやら職場の後輩だった甥っ子から、僕たちがこの日このホテルに予約したことを聞いたようだ。若い後輩の気持ちを理解して、彼女が代わりに僕たちを楽しませようと動いたのだと思う。彼女が仕掛けた1発目のサプライズで、僕たちは簡単にノックアウトされた感じだ(笑)。

ケーキを届けてくれた彼女は、さりげなくディナーのことを尋ねてくる(笑)。サプライズの第2章も気になったのだが、残念なことに、すでに日本橋の老舗和食店に予約してあった。でも、ここのBARには寄るつもりだと伝えた。ホテルは違っても。先輩後輩の二人は互いに切磋琢磨する仲間のような感覚なのかもしれない。二人に共通しているのは、今の東京へやってくる大事な人たちの、大事な時間を、できる限りサポートしたいという姿勢だろうか。
約束通り、夕食の後、ホテルに戻り、その足でBARへ向かった。やはりここにも嬉しいサプライズが用意されていた。一流ホテルのチーフコンシェルジュの技は、冴えわたっていた。で、僕は、ただの酔っぱらいになってしまった(笑)。
まぁ、長くなったのでBARでの話はまた別の機会に。

このホテル fourseasons.com/jp/otemachi/

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